40代会社員、昨年離婚しました。「離婚時年金分割」というものを知らず、手続きをせずに1年近くたってしまったのですが、まだ間に合いますか?
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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年金分割とは
例えば、妻が専業主婦の場合、妻の老齢年金は「老齢基礎年金」だけになり、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受給できる男性に比べ年金額が低いといった問題があります。そこで、2007年4月以降の離婚から、婚姻期間中に夫が支払った厚生年金保険料の一部を妻が支払ったものとみなして年金額の計算をする「離婚時年金分割」の制度ができました。
離婚時年金分割の種類には、配分を夫婦で協議して決める「合意分割」と、第3号被保険者期間(専業主婦期間)の夫(妻)の年金の2分の1を自動的にもらう「3号分割」があります。
分割されるのは、「老齢厚生年金」で婚姻期間中の部分の年金です。また、老齢基礎年金は分割の対象ではありません。現行、離婚から2年を経過すると「年金分割」の請求ができなくなりますので気を付けてください。
なお、遺族厚生年金が見直され、遺族(配偶者)の老齢厚生年金を増やす制度として、離婚時の年金分割と同様の仕組みで「死後分割」制度が導入されます(2028年4月施行予定)。
合意分割
2007年4月以降に離婚(事実婚の解消も含む)した場合、当事者双方からの請求により、合意した分割割合で「保険料納付記録」を多い人から少ない人へ分割するのが「合意分割」です。厚生年金部分の分割割合は2分の1の範囲内で、話し合いにより自由に決めることができます。
共働きの場合は2人の「保険料納付記録」を足して分割しますが、妻が夫より厚生年金が多い場合、妻の厚生年金の一部を夫に分割することになります。このように、年金分割が妻に不利になることもありますので注意しましょう。
分割割合について合意がまとまらない場合は、離婚当事者の一方の申立てにより、家庭裁判所が分割割合を定めることができます。多くの場合、裁判所は分割割合を半分としているようです。
3号分割
2008年4月以降の第3号被保険者(会社員等に扶養されている配偶者)期間について、第3号被保険者(多くは妻)からの単独の請求により、相手方(多くは夫)の厚生年金の「保険料納付記録」を合意によらず分割するのが「3号分割」です。分割の割合は2分の1(法定)です。
なお、2008年3月以前の第3号被保険者期間については合意分割によります。
離婚時の年金分割の留意点
離婚で分割できる年金は、「厚生年金」の部分だけです。自営業者など厚生年金部分がない場合は、年金分割はできません。また、分割できるのは、あくまでも「婚姻期間中の保険料納付記録」に対応する部分のみですので、年金額は多くありません。
厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、分割を受ける人の平均年金増加額は月額3万3102円で、自分の平均年金額は月額5万7979円から9万1081円になります。
3号分割に限ってみると、女子の平均年金月額は7779円しか増えず、自分の年金を合わせても平均年金月額は5万3199円にすぎません。
分割の手続きは、現行、離婚から2年以内に行う必要があります。分割が認められても、年金を受給できるのは65歳以降です。
離婚時の年金分割の手続き
まずは、年金分割の基礎資料を入手することから始めます。離婚の前後に必要書類を添えて「年金分割のための情報提供」の請求を年金事務所にします。単独で請求できます。
この情報をもとに、年金分割を行います。具体的には、夫婦で分割割合を話し合い、合意書を作成し、年金分割の請求手続きを行います。3号分割のみ請求する場合は、2人の合意は不要です。
年金分割の請求は、離婚後、「標準報酬改定請求書」に案分割合を明らかにする書類(3号分割は不要)を添付して行います。年金分割には申請の期限があり、現行、離婚から2年を経過すると請求できなくなりますので注意が必要です。
離婚時の年金分割請求期限の改正
2024年民法改正で、離婚時の財産分与の請求をできる期間が、離婚後2年から5年に改正されました。これに伴い、離婚時の年金分割の請求期限も2年から5年に変更になります(施行日は公布から1年以内)。
まとめ
分割できる年金は、「厚生年金」だけです。自営業者など国民年金しか加入していない人は、年金分割はできません。また、分割できるのは「婚姻期間中の記録」に対応する部分のみが対象です。自身の老齢年金の受給開始年齢に達しなければ、分割されて年金を受給できませんので注意しましょう。
年金分割をする際は、基礎資料が入手できますので手に入れてください。離婚の前後に必要書類を添えて、「年金分割のための情報提供」を年金事務所に請求すれば入手できます。なお、年金分割の請求期限は、2年から5年に改正されましたので留意しておきましょう。
出典
厚生労働省 その他の制度改正事項について(第19回社会保障審議会年金部会 資料3)
日本年金機構 離婚時の年金分割について
厚生労働省 令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
執筆者 : 新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。
