「年収1000万円」と高収入だった夫を亡くした妻に届く“遺族年金”は「月10万円」……。“年金は年収に比例する”はずなのに遺族年金が少ない理由は何ですか?
今回は、年収が1000万円だった夫を亡くした妻に支給される遺族年金の額が月額10万円と少ない理由について考えます。
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
遺族年金の仕組み
遺族年金は、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2階建て構造になっています。
1. 遺族基礎年金
遺族基礎年金は、亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受給することができます。遺族基礎年金の額は、定額で83万1700円(令和7年度額、昭和31年4月1日以前生まれの方は82万9300円)に子の加算額を加えた額となります(※1)。
1人目及び2人目:各23万9300円
3人目以降:各7万9800円
なお子とは、18歳になった年度末(3月31日)までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級か2級に該当している方をいいます。
2. 遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者または老齢厚生年金の受給者や受給権者などが死亡した際に、その方に生計を維持されていた配偶者や子など最も優先順位の高い方に支給されます。
遺族厚生年金の額は、死亡した方が受け取る老齢厚生年金の報酬比例部分に基づき、その4分の3の額となります。なお、厚生年金の被保険者期間が300月に満たない場合は、300月分として計算されます(※1)。
遺族厚生年金額=老齢厚生年金額(報酬比例部分)×3/4
したがって、遺族厚生年金の額は、年収に比例する老齢厚生年金の4分の3になることが少ない理由の一つです。
なお、一定の要件を満たす妻に支給される遺族厚生年金には、40~65歳になるまでの間、中高齢寡婦加算として年額62万3800円(令和7年度額)が加算されます。
年収と厚生年金額
1. 老齢厚生年金(報酬比例部分)は年収に比例する
厚生年金の算定基礎となる報酬比例部分の額は、厚生年金の加入期間と在勤中の報酬などによって下式から算出されます(※2)。
報酬比例部分=平均標準報酬額×5.481/1000×加入期間の月数
平均標準報酬額とは、在職中の標準報酬月額を月ごとに合算した総額と標準賞与額の総額を加入期間で割った額となります。
標準報酬月額とは、被保険者が受け取る税引き前の給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定された額です。また、標準賞与額とは、税引き前の賞与の額から1000円未満の端数を切り捨てた額です。
したがって、1年間の標準報酬月額と標準賞与額の合計は年収にほぼ等しくなるため、報酬比例部分は年収に比例するといえます。
2. 遺族厚生年金月額10万円の方の報酬比例部分
今回の事例では、年収1000万円の夫に扶養されていた妻に支給されている遺族年金が、夫の年収に比較して少ないことに疑問をお持ちです。そのため、遺族基礎年金や中高齢寡婦加算額が支給されない65歳以上の子のない妻を例として考えます。
遺族厚生年金の月額が10万円ということは、年額で120万円となります。したがって、老齢厚生年金額(報酬比例部分)は下式により160万円と算定されます。
遺族厚生年金額=老齢厚生年金額(報酬比例部分)×3/4
老齢厚生年金額(報酬比例部分)=120万円×4/3=160万円
年収1000万円の報酬比例部分が160万円の理由
年収1000万円といっても、現在の年収が1000万円と、平均年収が1000万円の2通りの解釈ができます。
1. 現在の年収が1000万円であった場合
仮に、20~60歳までの40年間勤務した方の報酬比例部分が160万円とした場合の平均年収は、下式から730万円ほどになります。
報酬比例部分=平均標準報酬額×5.481/1000×加入期間の月数
平均標準報酬額=報酬比例部分×1000/5.481÷加入期間の月数
平均標準報酬額=160万円×1000/5.481÷(40年×12月)≒60万8162円
平均年収=60万8162円×12月≒730万円
したがって、60歳時点の年収が1000万円であった方の平均年収が730万円とすると、20歳時点の年収は460万円程度であったものと推定され、その結果報酬比例部分の額が160万円となります。
2. 平均年収が1000万円であった場合
報酬比例部分の計算に用いられる標準報酬月額と標準賞与額には上限があります。
標準報酬月額の上限値は、令和7年度現在65万円ですので、65万円以上の報酬があっても保険料や年金額には反映されません(※3, 4)。
したがって、仮に平均年収が1000万円で推移したとしても、年収1000万円の内訳が全て月給で支払われていた場合、標準報酬月額は上限値の65万円となり、年収で780万円分しか報酬比例部分の計算に反映されません。
その結果、40年間年収が1000万円だったとしても、下式の通り報酬比例部分の額は171万72円となり、その遺族厚生年金の額は128万2554円となります。
報酬比例部分=65万円×5.481/1000×(40年×12月)=171万72円
まとめ
遺族厚生年金の額は、亡くなった方の老齢厚生年金のうち報酬比例部分の4分の3の額となります。老齢厚生年金の額は、年収と厚生年金の加入月数に比例して算定されますが、計算に用いられる標準報酬月額や標準賞与額には上限が設けられています。
そのため、たとえ年収が高くても、上限額を超える部分は年金額に反映されません。結果として「年収1000万円」といった高収入であっても、遺族厚生年金の支給額は想定より少なくなるケースがあるのです。
将来の受給額を正確に把握するためにも、加入期間や標準報酬の上限を確認し、自分の年金見込みを定期的にチェックしておきましょう。
出典
(※1)日本年金機構 遺族年金
(※2)日本年金機構 年金用語集 は行 報酬比例部分
(※3)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※4)日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
