55歳「年収700万円」の夫が死亡…妻が遺族年金額を「思ったより少ない」と驚いたワケとは? 高年収でも“遺族年金だけ”では生活できないのでしょうか?
そのような遺族にとって、経済的な支えとなる「遺族年金」をどれくらい受給できるのかは、大いに気になるところではないでしょうか。特に、故人にある程度の年収があった場合は「かなりもらえるのではないか」と考える人も多いかもしれません。
本記事では、遺族年金受給額の計算方法や、子どもが独立している家庭で、夫が55歳で亡くなり、年収700万円だった場合、妻が受け取る遺族年金を計算してみます。年齢による年収の推移も考慮した試算も行いますので、参考にしてください。
FP2級
遺族年金はどのように計算されるのか
遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。そのうち遺族基礎年金は定額での支給となり、令和7年度の支給額は「83万1700円+子の加算額」です。ただし、受給資格があるのは「子のある配偶者」と「子」だけで、子どもが就職などで独立していれば、故人の配偶者であっても受給できません。
一方、会社員など厚生年金に加入していた人の遺族に支給される遺族厚生年金は、子どもの有無に関係なく受給可能です。支給額は一律ではなく、亡くなった人の厚生年金報酬比例部分の4分の3になります。
報酬比例部分とは、受け取れる老齢厚生年金のうち、年金の加入期間や在職中に受け取った報酬などによって決まる部分のことです。年金制度はよく「2階建て」と言われますが、定額の老齢基礎年金が1階で、報酬比例部分は2階と言えば分かりやすいでしょう。
受給額の計算式は、時期で異なりますが、2003年4月以降であれば「平均標準報酬額×5.481÷1000×厚生年金加入月数」で計算します。さらに、40歳から65歳までの「子のない配偶者」は、「中高齢寡婦加算」も併せて受給可能です。
55歳、年収700万円の夫が亡くなった妻が受け取る遺族年金は?
それでは、今回のように子どもがすでに独立し、55歳で年収700万円の夫を亡くした妻の場合、遺族年金の受給額はどれくらいになるでしょう。亡くなった夫は大学卒業後、22歳から33年会社で働き、妻は2歳年下だったと仮定し、計算してみます。
まず、子どもは独立しており、妻は遺族厚生年金しか受給できません。受給額は計算を簡略化し、2003年4月以降の報酬比例部分の計算式で考えてみましょう。
まず、年収700万円を月額に直すと700万円÷12=約58万3000円ですが、標準報酬に当てはめると59万円です。加入月数に関しては33年×12ヶ月=396ヶ月になります。
そのため、妻の受給額は、59万円×5.481÷1000×396ヶ月×4分の3=約96万円になります。また、65歳までは「中高齢寡婦加算」として、年62万3800円も受給可能です。年間受給総額は約96万円+62万3800円=約158万3800円、月額では約13万2000円になります。
年収の推移には注意が必要
金額を聞く限り、年収700万円だった人の遺族でも、遺族年金だけで暮らすのは厳しいかもしれません。さらに注意が必要なのは、報酬比例部分の計算基礎となる報酬は、亡くなった時点ではなく、在職中の全期間で計算されることです。
夫は55歳時点では年収700万円でしたが、現実的に考えると、それ以前の年収はもっと低かったかもしれません。そうなればさらに受給額は少なくなってしまいます。
例えば、「20代400万円、30代500万円、40代600万円、50代700万円」と年収が推移したと仮定して再計算してみましょう。年代ごとの報酬比例部分の計算式は以下のとおりです。
・20代 平均標準報酬額34万円×5.481÷1000×96ヶ月×4分の3=約13万4000円
・30代 平均標準報酬額41万円×5.481÷1000×120ヶ月×4分の3=約20万2000円
・40代 平均標準報酬額50万円×5.481÷1000×120ヶ月×4分の3=約24万6000円
・50代 平均標準報酬額59万円×5.481÷1000×60ヶ月×4分の3=約14万5000円
これらを合計すると72万7000円にしかならず、年収が700万円で一定だった場合との比較では、年間約23万3000円、月約2万円も少なくなります。多くの会社員は年齢とともに収入が上がることが多いため、報酬比例部分の計算方法を把握して、受給額を想定しておくことも大切です。
まとめ
遺族年金が、遺族の生活を支える経済的な糧になるのは言うまでもありませんが、かといって遺族年金だけで生活するのは難しいケースが多いでしょう。そのため、生命保険や貯蓄などで、配偶者の死亡などもしもの場合に備えなければなりません。
また、故人の年収の推移によっても受給額が変わり、思っていたよりも受給額が少ない可能性もあります。残された遺族の状況次第で、どの程度の備えが必要かは変わりますが、遺族年金の制度を十分理解した上で、対策を講じることが重要です。まずは報酬比例部分など、遺族年金の受給可能額を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
出典
日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 は行 報酬比例部分
日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)
執筆者 : 松尾知真
FP2級
