ねんきん定期便を見たら、「受給開始を75歳にすると最大84%増」と書かれていたけど、本当に得になるの?
確かに、受給を遅らせることで受け取る年金額が増えるという制度は存在します。しかし、それだけで“必ず得する選択”とは言えず、個人の状況やライフプランによってメリット・デメリットが分かれます。
この記事では、受給開始を遅らせる「繰下げ受給」の仕組み、期待できる増額分、そしてその選択が本当に“得”かどうかを整理します。
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目次
「受給開始を75歳にして最大84%増」という数字の裏側
まずは、ねんきん定期便などに記載されている「受給開始を75歳にすると最大84%増」という文言が、どのような制度に基づき、どういう条件で成立しているのかを確認しましょう。
公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)では、原則的な受給開始年齢は65歳です。しかし、受給を65歳から開始せず、66歳以降75歳まで請求を遅らせる「繰下げ受給」という制度があります。
日本年金機構によれば、この制度では、1ヶ月遅らせるごとに年金額が0.7%増えるという仕組みが定められていて、最大75歳まで繰り下げた場合、全体で最大84%増額されます。
このため、ねんきん定期便で「最大84%増」という記載が出てくるわけです。ただし、「最大84%増」というのはあくまで次のような条件がそろった場合の「理論上の最大値」です。
まず、65歳で請求せず、75歳まで繰り下げることです。さらに、繰下げ待機期間中に他の公的年金の受給権(遺族年金など)が発生していないこと、在職老齢年金の支給停止に該当しないことなどが条件とされています。
つまり、すべての条件が整った場合に「84%増」が達成されるわけで、すべての人にその水準が適用されるわけではありません。さらに、受給を遅らせた期間、その年金を受け取らずに過ごすことになるため、その間の生活資金をどう確保するかが重要になります。
繰下げ受給で「本当に得かどうか」を判断するための3つの視点
では、繰下げ受給が「自分にとって得かどうか」を判断するための視点を整理します。
1.待機期間中の生活費・収入は確保できるか
受給を65歳から75歳まで繰り下げるということは、その間、年金を受け取らないということになります。その間の生活費を貯蓄・勤労収入・家族支援などで賄えるかどうかがカギです。
繰下げをしたにもかかわらず、待機期間中に生活が苦しくなってしまうと、増額を受けられても“結果として損”になり得ます。繰下げ受給は、年金以外の収入や貯蓄がある人に向いているといえるでしょう。
2.どれだけ長生きできるか(回収年数を見込めるか)
増額された年金を受け取り始めてから、何年で“差額分を回収”できるかを考える必要があります。
例えば、65歳から受給を始めた場合と75歳から始めた場合で、10年、20年生きたときの総受給額を比較すると、75歳受給開始が有利になるのは一定以上長生きした場合です。短命だと、むしろ65歳開始のほうがトータルの受給額で勝つ可能性もあります。
3.税金・保険料・他の年金制度との兼ね合い
増額された年金を受け取ると、当然ながらその分「年金収入」が増え、所得税・住民税・医療保険料・介護保険料の負担も影響を受けます。また、加給年金や振替加算など、繰下げ待機期間中に受けられなかった加算部分がそのまま増額対象とならないという注意点もあります。
まとめ:繰下げ受給は「得になる可能性があるが、条件次第で得にも損にもなる選択」
「ねんきん定期便」にある「受給開始を75歳にすると最大84%増」という記述は、制度上可能な最大の増額値を示したものです。しかし、それだけで“誰にとっても得”というわけではありません。
繰下げ受給が本当に得になるかどうかは、(1)待機期間中の収入・生活資金が確保できているか、(2)受給開始後何年生きるかという想定、(3)税金・保険料・他の年金制度への影響を含めた全体像を見たうえで判断すべきです。
もし繰下げ受給を検討するなら、まず「現在の貯蓄」「今後の収入見込み」「健康・家族状況」「受給開始後の家計見通し」を整理し、専門家(年金事務所・ファイナンシャルプランナーなど)に相談しながら、自分にとってベストな選択を行うことが望まれます。
制度を“使える”かどうかだけでなく、“使ったうえでどうなるか”を前提に考えることが大切です。
出典
日本年金機構 年金の繰下げ受給
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
