来年65歳で年金受給開始を控えています。繰下げをすると「最大84%増える」と聞きましたが、本当にそんなに増えるのでしょうか?

配信日: 2025.11.09
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来年65歳で年金受給開始を控えています。繰下げをすると「最大84%増える」と聞きましたが、本当にそんなに増えるのでしょうか?
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和5年度)によると、国民年金の繰上げ受給は24.5%、繰下げ受給は2.2%と、特に繰下げ受給を選択する方はまだ少ない状況となっています。タイトルの答えは、当然「Yes」です。制度上では、最大84%増やして繰下げ受給することが可能です。
 
本記事では、繰下げ受給を選択する場合に覚えておきたい事項について確認しています。
高橋庸夫

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

老齢年金の繰下げ受給の制度

老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)の本来の受給開始年齢は65歳となっており、それよりも遅く(66歳から75歳まで)年金の受け取りを開始する制度を「繰下げ受給」といいます。
 
繰下げ受給をすると、年金の受け取り開始を遅らせた期間に応じて年金額が増え、その増額率は生涯にわたって変わりません。
 
ちなみに、年齢は「年齢計算に関する法律」に従って算出され、65歳の誕生日を迎える前日が「65歳に達した日」として扱われます。
 
繰下げ受給の増額率は、以下の計算式から求められます。
 
増額率(最大84%)=0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数
※最大で75歳まで繰下げが可能ですので、0.7%×12月×10年=84%となります。
 
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、いずれか一方のみ繰下げ受給を選択することができます。例えば、老齢基礎年金は令和7年4月分からの満額で、83万1700円となっており、この部分のみ65歳から受け取りを開始し、老齢厚生年金については66歳以降に繰下げることが可能です。
 

在職老齢年金制度による影響

在職老齢年金とは、65歳以降に厚生年金保険への加入期間がある場合や、70歳以降に厚生年金保険の適用事業所で働いていた期間がある場合に、会社等から受け取る給与等の金額と年金月額の合計額により、年金額が一部または全額支給停止される制度です。
 
この場合の繰下げ加算額の計算は、支給停止されていた額を除いて算出されます。具体的には、繰下げ待機期間の月単位の支給率から平均支給率を求め、繰下げ加算額に平均支給率を乗じて算出します。
 
つまり、65歳以降働いた場合でも、それによって増加した老齢厚生年金の満額が繰下げ受給の計算の対象とはならず、繰下げ待機期間中の減額調整された額を除いた平均額によって加算額が計算されることになります。
 

その他、覚えておきたい事項

繰下げ受給を選択する場合に、覚えておきたい主な事項は以下の通りです。
 

(1)繰下げ待機期間中は、加給年金や振替加算が受給できない

加給年金とは、厚生年金加入期間が20年以上あり、それによって生計を維持されている65歳未満の配偶者または18歳到達年度の末日までの子がいる場合の家族手当のようなものです。振替加算とは、配偶者が65歳に達した時点で加給年金が支給停止となるため、その代わりに配偶者の老齢基礎年金に生年月日に応じた額が加算される制度です。
 
つまり、状況によっては繰下げ受給ではなく、加給年金を複数年受給することを選択することも考えられます。また、加給年金や振替加算の額は増額の対象にもなりません。
 

(2)待機期間中に、遺族年金などの受給権が発生すると、その時点で増額率が固定される

66歳に達した後の繰下げ待機期間中に、配偶者の死亡などを理由に遺族年金(他の公的年金の受給権)の受給権を取得した場合、たとえ年金の請求を遅らせても増額率がこれ以上上がることはありません。
 

(3)繰下げ請求は、遺族が代わって行うことができない

繰下げの待機期間中に死亡した場合でも、遺族が代わりに繰下げの請求を行うことはできません。遺族から未支給年金の請求が可能な場合には、65歳時点の年金額をもとに計算され、過去の年金額が未支給年金として一括で支払われます。ただし、請求時から5年以上前の分は時効となり、受け取れないので注意が必要です。
 

まとめ

制度上では最大84%増やして繰下げ受給することが可能ですが、繰下げ受給を選択する場合には、受給開始までの期間の生活費、住居費、医療費などを他の方法でまかなうことが必要となります。この点に支障がなければ、最大限制度上のメリットを生かして、最大限増額された年金を受給する選択肢も一つでしょう。
 
ただし、最大の75歳まで繰下げする場合には、死亡するリスクや病気になるリスクなどもある程度想定しておかなければなりません。たとえ年金が増額されても健康状態が芳しくなく、自分のためにお金を使うことがままならないこともあり得ます。ご自身の状況に応じて、制度を活用することが重要となるでしょう。
 

出典

厚生労働省 厚生年金保険・国民年金事業年報
日本年金機構 年金の繰下げ受給
日本年金機構 加給年金額と振替加算
 
執筆者 : 高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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