遺族年金が「5年で打ち切り」に!?「年収500万円」の夫が“子ども2人”を残して亡くなった場合、いくらもらえる? 2028年度から替わる「遺族厚生年金」についてFPが解説
考えたくないことですが、現実には誰にでも起こりうる出来事です。そんなとき、のこされた配偶者や子どもの生活を支える制度が「遺族年金」です。
ところが、2028年4月から、この「遺族年金(とくに遺族厚生年金)」の制度が大きく見直されます。支給期間が「5年で打ち切りになる」という報道もあり、不安を感じている人も少なくありません。
本記事では、年収500万円の夫が子ども2人をのこして亡くなった場合を例に、遺族年金制度について詳しく解説し、改正の背景と内容について説明します。制度改正の内容を正しく理解し、万一に備えるための一助としていただければ幸いです。
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
銀行にて12年勤務し、法人および富裕層向けのコンサルティング営業に従事。特に相続対策や遊休地の有効活用に関する提案を多数手がけ、資産管理・税務・不動産戦略に精通。銀行で培った知識と経験を活かし、収益最大化やリスク管理を考慮した土地活用のアドバイスを得意とする。
現在は、2社の経理を担当しながら、これまでの経験をもとに複数の金融メディアでお金に関する情報を発信。実践的かつ分かりやすい情報提供を心がけている。
年収500万円・子ども2人の場合、いくらもらえる?
まず、現行制度(2025年時点)での受給額を見ておきましょう。会社員として厚生年金に加入していた夫が亡くなり、受給要件を満たしている場合、のこされた妻と子どもには「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」が支給されます。
遺族基礎年金
子どものいる配偶者または子ども本人に支給されるもので、2025年度の基本額は83万1700円です。ここに子の加算(1人あたり23万9300円)が上乗せされるため、子ども2人の場合、合計で約131万円が目安となります。
遺族厚生年金
夫が厚生年金に加入していた場合、亡くなった夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が支給されます。
「老齢厚生年金」とは、会社員や公務員として厚生年金に加入していた人が、原則65歳から受け取る年金のことです。遺族厚生年金は、このうちの報酬比例部分を基準として計算されます。
年収500万円・勤務年数25年と仮定し、標準報酬月額を約40万円として計算した場合、遺族厚生年金は年額およそ51万円前後となり、月額にすると4万2500円です。ただし、実際の金額は昇給や賞与などで増減するため、この試算は参考程度に考えておきましょう。
厚生労働省の調査では、遺族厚生年金の平均額は令和4年度末時点で月額8万1540円です。
合計の受給額と中高齢寡婦加算
遺族基礎年金と遺族厚生年金と合わせると、妻と子ども2人の家庭では年間でおよそ182万円(月額15万円)の支給を受けられる計算です。
さらに、夫の死亡時に40歳以上65歳未満の妻が、子どもの成長などで遺族基礎年金の支給要件を満たさなくなった場合には、「中高齢寡婦加算(年額62万3800円)」が遺族厚生年金に上乗せされ、65歳になるまで支給されます。
ただし、今回の改正では、この仕組みが大きく見直される予定です。
2028年4月からどう変わる? 改正の背景と内容
2028年4月からの改正では、男女で異なっていた遺族厚生年金の仕組みが見直され、男女平等の制度へと変わります。
現行では「夫を亡くした妻」に無期限で支給されていますが、2028年からは男性にも対象が広がり、支給は原則5年に限定されます。給付期間中は「有期給付加算」が上乗せされ、支給額は現行の約1.3倍となる見込みです。また、5年終了後も、障害がある場合や所得が一定以下の場合は継続給付が可能です。
さらに、妻のみ対象としていた「中高齢寡婦加算」は、2028年以降、20年間かけて段階的に縮減・廃止される予定です。
このように、子のいない20~50代の配偶者に対する遺族厚生年金は、有期(最長5年)の給付とする方向で検討が進められている一方で、子どもを養育している世帯については、子が18歳到達年度末までは遺族基礎年金および遺族厚生年金の受給が可能です。
また、今後の見直しでは子の加算額の引き上げも検討されており、1人あたり年額28万1700円程度、子ども2人の場合は年間で56万3400円の加算となる見通しです。
まとめ
2028年4月からの改正内容の、「5年で打ち切り」になるのは、子がいない場合の遺族厚生年金のことであり、子がいる人は影響を受けません。それどころか、子どもの加算額引き上げにより、子育て世帯の遺族年金はやや増額されます。
ただし、子がいるいないにかかわらず、今後は「遺族年金だけに頼らない生活設計」が求められる時代になります。生命保険や貯蓄、働き方などを含めた自立への備えが重要です。制度の変化を正確に理解し、将来に備えることが、家族を守る第一歩といえるのではないでしょうか。
出典
日本年金機構 遺族年金
厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて
厚生労働省 遺族厚生年金の見直しに対して寄せられている指摘への考え方
執筆者 : 竹下ひとみ
FP2級、日商簿記2級、宅地建物取引士、証券外務員1種
