「厚生年金保険料」の“引き上げ”に! 改悪と思いきや“年収1000万円”の友人は「俺は得する」とのこと。“保険料が上がる”のに、なぜ喜ぶのでしょうか?
現在、標準報酬月額の上限は65万円(32等級)ですが、2025年6月に成立した年金制度改正法によって、2027年から上限が段階的に引き上げられ、2029年には75万円となることが決定しました。
高収入の会社員にとっては、保険料の徴収が増えるため「また改悪か」と感じる人もいるかもしれません。しかし、厚生年金保険料が増えることは、将来の年金額に反映されるので、必ずしも改悪とは言い切れません。
本記事では、標準報酬月額の上限引き上げによる保険料の増加と、将来の年金受給額がどのように変化するかについて、具体的な試算をしながら解説します。
FP2級、日商簿記3級、管理栄養士
厚生年金保険料の改正内容とは?
厚生年金保険料算出における標準報酬月額の上限引き上げは、2025年6月に成立した年金制度改正法に基づくものです。今後、次のように段階的に引き上げられます。
・現在 65万円
・2027年 68万円
・2028年 71万円
・2029年 75万円
現在の上限である65万円(32等級)に当てはまるのはどれくらいの年収の人かというと、年間約780万円(65万円×12ヶ月)で、これに賞与も考慮すると、年収ベースでは900万円程度の人が該当します。
つまり、それ以上の年収の人は、保険料が頭打ちとなっています。このため、年収1000万円程度かそれ以上で、上限の保険料を納付していた人は、今回の改正で段階的に保険料が増えていくことになります。
厚生年金保険料は、標準報酬月額に保険料率18.3%をかけて算出した額を、多くの場合、労使が折半して支払います。現在(65万円が上限)と比較して、改正後に個人が負担する年間保険料の具体的な増加額は次の通りです。
・2027年(上限68万円):3万2940円
・2028年(上限71万円):6万5880円
・2029年(上限75万円):10万9800円
保険料は増加するが、将来の年金受給額も増加する。どう考える?
公的年金は2階建て構造で、1階が全国民共通の基礎年金、2階が厚生年金(主に報酬比例部分)です。
これに配偶者や家族の状況に応じた加算を加え、最終的に受け取る年金額が決まります。報酬比例部分は、現役時代の月収(標準報酬月額)と賞与額をもとに計算されるため、今回の改正で影響があるのは、この報酬比例部分です。
厚生労働省の試算によると、65万円から75万円に上限が引き上がった状態で10年間保険料を納めると、将来の年金受給額は月額5100円増加し、これが終身で受け取れます。先ほど解説した保険料の増加を元に試算すると次の通りです。
・10年間で増加する保険料:10万9800円×10年=109万8000円
・年金を10年受給した時点:年金受給額の増加総額は61万2000円
・年金を15年受給した時点:同91万8000円
・年金を20年受給した時点:同122万4000円
現役時代に支払う保険料は増えますが、年金受給は終身であるため、受給する期間が長くなれば、将来の年金受給の増加分が現役時代に支払う保険料の増加分を上回る可能性があります。
保険料と年金受給額の関係性を正しく理解しよう
厚生年金保険料算定に用いる標準報酬月額の上限は、2027年から段階的に引き上げられ、2029年には75万円になります。高年収の人にとっては、保険料の負担が増える一方で、将来受け取れる年金額も増えるため、場合によっては支払う保険料よりも受け取る年金額が多くなります。
人生100年時代と言われる現代において、老後資金の安定につながる改正内容は、友人が言ったように「うれしい」ものとも考えられます。すぐに「改悪」と決めつけるのではなく、制度改正の内容を正しく理解するようにすれば、新しい見方ができるかもしれませんね。
出典
全国健康保険協会 令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)
厚生労働省 厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて
執筆者 : 東雲悠太
FP2級、日商簿記3級、管理栄養士
