「65歳以降も厚生年金に入れば年金が増える」と聞きましたが、年収600万円でもそんなに変わるのですか? いくらお得になるのか知りたいです!
本記事で、年収600万円の会社員を例に、目安となる金額を試算してみましょう。
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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「在職定時改定」で年金は毎年増える
2022年(令和4年)の制度改正により、65歳以降も厚生年金に加入して働くと、年に1回、年金額が自動的に見直される「在職定時改定」が導入されました。これにより、70歳まで働きながら保険料を納めることで、毎年少しずつ老齢厚生年金の受給額が上乗せされていくようになりました。
従来は、70歳に到達した時点でまとめて年金額が再計算されていましたが、現在は毎年9月1日時点の加入実績が10月分の年金に反映され、12月の支給分から増額される仕組みです。つまり、働いた分が翌年からすぐに年金に反映されるようになったのです。
年収600万円の会社員が5年間働いた場合の試算
では、実際に65~70歳までの5年間、年収600万円で働き続けた場合、年金はどのくらい増えるのでしょうか。
厚生年金の年金額は、以下の計算式で求められます:
報酬比例部分の年金額(年額)=平均標準報酬月額 × 5.481 ÷ 1000 × 加入月数
年収600万円の場合、標準報酬月額を12で除して「50万円」と仮定します。これをもとに計算すると、増加額は以下のとおりになります。
・年間の増加額:50万円 × 5.481 ÷ 1000 × 12ヶ月 ≒ 3万2800円
・加入2年間ならば、3万2800円×2年≒6万5600円
・5年間ならば増加総額:3万2800円 × 5年 ≒ 16万4000円
つまり、65~70歳まで厚生年金に加入し続けた場合、老齢厚生年金は年額で約16万4000円増える見込みです。なお、ボーナスの有無や配分が違っても、合計年収が同じなら、式が「月額×月数+賞与合計」の総和に同じ係数をかけるため、増額分は同じになります。
何年で元が取れるのか?
一方、納める納付額についてみてみましょう。
厚生年金の保険料率は18.3%、これを事業主と本人で折半します。年収600万円の場合、本人負担は約9.15%となり、年間では600万円×0.0915=54万9000円です。
先の試算で年金の年額が約3万2800円増えるという結果から、「自己負担で元を取る」までの単純計算での目安は約16.7年ということになります(54万9000円÷3万2800円)。
実際には、本人負担分は社会保険料控除の対象となり、所得税や住民税が軽減され、実質負担は小さくなること、在職中の厚生年金加入分は毎年10月に「在職定時改定」で年金額へ反映される(65歳以上70歳未満)といった事情から、単純試算より有利になる可能性があります。
高齢任意加入のメリットと注意点
65歳以降の厚生年金加入は「高齢任意加入」と呼ばれる制度で、本人の意思と事業主の同意、さらに年金事務所の認可を得ることで70歳未満まで加入を継続することが可能となります。
メリットはもちろん、年金額が増えること。さらに、働きながら保険料を納めることで、収入と将来の年金という安心が得られる点も魅力です。
ただし、注意点もあります。例えば、65歳前に老齢厚生年金を繰上げ受給していた場合や、65歳以降に繰下げ受給を選択している場合は、「在職定時改定」が適用されないケースがあります。また、65歳を過ぎれば、健康状態や働く意欲が低下することもあり、保険料納付が負担となることもあるでしょう。
働き方と年金受給
シニア世代では、単なる収入を確保するという目的だけでなく、健康維持や社会参加からも就労を継続することへの関心が高くなっています。最近では、65~69歳世代、あるいは70歳以降も就労を継続している人は増えています。年金の増額は、こうした働き続ける選択を後押しする大きな要素といえるでしょう。
年金支給開始年齢の繰下げによる受給額を増やす選択肢と、自分の健康状態や意欲を踏まえながら、老後の収入確保について考えていきましょう。
無理のない範囲
65歳以降も厚生年金に高齢任意加入することで、年金額は確実に増やすことができます。年収600万円の会社員であれば、5年間の加入で年額約16万円の上乗せが見込まれます。さらに、長生きをすれば生涯で数百万円の差になる可能性もあります。
ただし、加齢とともに体力や健康の面で無理が利かなくなることが多くなります。年金の増加額という単なる数値だけではなく、健康状態や生活環境なども考慮して、長続きする選択をすることが最も大切でといえるでしょう。
出典
日本年金機構 令和4年4月から在職提示改定制度が導入されました
日本年金機構 は行 報酬比例部分
全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)
日本年金機構 か行 高齢任意加入
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者