「受給手続き前に亡くなると年金はもらえない」と聞いて驚きました。夫婦と独身で対応が違うんでしょうか?
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士
大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルマザーとあらゆる立場を経験した後、FPと社会保険労務士の資格を取得し、個人事業主から社会保険労務士法人エニシアFPを共同設立。
社会保険労務士とFP(ファイナンシャルプランナー)という二刀流で活動することで、会社側と社員(個人)側、お互いの立場・主張を理解し、一方通行的なアドバイスにならないよう、会社の顧問、個別相談などを行う。
また年金・労務を強みに、セミナー講師、執筆・監修など首都圏を中心に活動中(本名は三角桂子)。
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金がある
遺族年金には、国民年金部分である遺族基礎年金と、厚生年金保険部分である遺族厚生年金があります。遺族基礎年金を受給できる人は、子または子のある配偶者となっているため、原則、高校卒業(18歳になった年度の末日)までの子(※1)がいないと受け取ることができません。
(※1)上記の要件以外に20歳未満で障害等級1級または2級の子、婚姻していないこと
一方、遺族厚生年金を受給できる人は、1.子のある配偶者、2.子、3.子のない配偶者、4.父母、5.孫、6.祖父母(優先順位は1より)となっています。
上記より、遺族基礎年金については、該当する「子」がいないと受け取ることができません。子の生活を守るためのセイフティーネットの年金です。今回は子のいない「夫婦」と「独身」についてお伝えします。
子のいない夫婦の遺族年金
年金を受給する前、原則65歳前に亡くなった場合、亡くなった時点が国民年金に加入中なのか厚生年金保険に加入中なのかで大きく異なります。ほか、年金の加入期間と保険料納付要件と生計維持関係が重要となります。
(1) 厚生年金保険に加入中の場合(※2)
厚生年金保険の被保険者が亡くなった場合、納付要件を満たしていると、遺族厚生年金を受給できます。加入期間が短い若い世代の人でも受給でき、手厚い保障といえるでしょう。ただし、亡くなった時、30歳未満の子のない妻の遺族年金は5年の有期年金となります。
(※2)(1)のほか、厚生年金保険の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡したときや1級・2級の障害厚生(共済)年金を受給している人も遺族年金を受け取ることができます。
(2) 国民年金に加入中で原則25年保険料を納付等している場合
亡くなった時には厚生年金保険に加入していない場合でも、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合わせた期間が25年以上の要件を満たしていると、厚生年金保険の加入期間に応じた年金を受給できます。反対に25年なく、会社を退職してから亡くなった場合、遺族厚生年金を受け取ることができません。
遺族厚生年金額は原則、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3で計算します。ただし、上記(1)の厚生年金保険の被保険者が亡くなった場合、加入期間が短くても最低保障として300月にみなして計算され、さらに亡くなった時点での妻の年齢が40歳以上であれば、要件に該当すると加算がつくこともあります。
2025年11月現在では、厚生年金保険に加入の夫がなくなった場合は上記の要件等になりますが、同じ条件で妻が亡くなった場合、夫が55歳未満であると、遺族厚生年金は受け取ることができません。
独身の場合
独身の人が亡くなった場合、前段(1)、(2)に該当すると、遺族厚生年金の最優先順位は父母となります。父母が自身の年金を受取っていると、自身の年金が優先され、遺族厚生年金は老齢厚生年金を引いた差額支給になります。
よくあるケースでは、父親は現役時代、会社勤めが長く、父自身の老齢厚生年金額が高い場合、子の遺族年金は全額支給停止となる可能性が高いです。
また、母親は、専業主婦の期間が長く、母自身の老齢厚生年金額が少ないと、子の遺族年金を受け取ることができますが、金額は2分の1です。あくまでも父母それぞれが2分の1ずつとなります。
遺族の優先順位は、配偶者と子、父母、孫、祖父母となっています。ほか、生計維持要件等を満たしていると受け取ることができますが、要件に該当しなければ、受け取ることができません。
まとめ
今回は遺族厚生年金についてお伝えしましたが、国民年金の独自給付もあります。国民年金第1号被保険者として保険料を納付した期間が3年(36月)以上ある人が亡くなると、遺族は死亡一時金を受け取ることができます。
また、受け取りは60歳から64歳に限定しますが、要件に該当すると寡婦年金を受け取ることができます(死亡一時金と寡婦年金を受け取る時にはどちらかを選択)。
2025年6月に、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が成立しました。働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえて年金制度も法改正されています。今後、遺族年金は法施行されると大きく変わりますので、注意が必要です。
出典
日本年金機構 遺族年金ガイド
厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
執筆者 : 三藤桂子
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士
