「年収1200万円」の兄と、「600万円」の弟…年収格差は“2倍もあった”のに、弟が「兄より多く年金を受け取れた」意外な理由とは? 受給額が“逆転する”ケースを解説
本記事では、年収1200万円の兄とその半分の600万円の弟であっても、65歳以降の年金受給額が逆転するケースを紹介します。
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年金受給額はどのような計算で決まるのか?
まず、将来もらえる年金はどのように計算するのかを確かめておきましょう。
年金には、20歳以上60歳未満の全ての人に加入義務がある国民年金(老齢基礎年金)に加え、会社員や公務員などが加入する厚生年金があり、算出の仕方が異なります。国民年金は、毎月の保険料が一定で、40年間(480ヶ月間)加入すると満額の約83万1700円(2025年度)を受給可能です。
最低10年の受給資格期間は必要ですが、保険料免除や猶予などを省いたシンプルな計算式は「83万1700円×保険料納付月数÷480ヶ月」となり、受給額は納付月数に比例して増えます。
一方の厚生年金には報酬比例部分の上乗せがあります。報酬比例部分の計算式は時期によって変わりますが、2003年4月以降は「平均標準報酬額×5.481÷1000×加入月数」で計算可能です。
また、平均標準報酬額とは毎月の報酬と賞与を合算し、加入月数で割ったものです。つまり、年収が多いほど平均標準報酬額が高くなり、将来の受給額が増えるのです。
年収格差が2倍あるのに年金が逆転するケースとは
計算式からも分かるとおり、将来の年金を決める要素を大雑把に言えば「加入(保険料納付)月数」と「年収」の2つです。とくに報酬比例部分に関しては、年収が多いほど年金増につながります。
では、年収1200万円の兄と600万円の弟のように、年収に2倍もの格差があるのに年金が逆転することはあるのでしょうか。もちろん、年収が2倍でも、働いた期間が短く加入月数は2分の1程度なら受給額が同じぐらいになることはあるでしょう。
しかし、働いた期間の差が年収の差より小さくても、受給額が逆転するケースがあります。ここでは年収1200万円の兄は55歳で会社を早期退職し、年収600万円の弟は年金受給が始まる65歳までコツコツ働いたと仮定して計算してみましょう。まず、国民年金には2人とも20歳から加入し、兄が仕事を辞めたあとも60歳まで保険料を納めれば、いずれも約83万1700円が受給額となり、この部分では差がありません。
次に、2人とも22歳で大学を卒業した後、会社員として働き出したと仮定して、報酬比例部分を計算してみます。弟の場合、加入期間は43年で516ヶ月、年収を平均標準報酬額に直すと600万円÷12ヶ月=50万円となるため、報酬比例部分は50万円×5.481÷1000×516ヶ月=約141万4000円です。
次に年収が弟の2倍の1200万円だった兄はどうなるでしょうか。加入月数は33年×12ヶ月=396ヶ月、年収を月に直した金額は1200万円÷12ヶ月=100万円になります。
ただ、ここで問題になるのが図表1に示した標準報酬の等級です。実は等級は報酬月額63万5000円以上の32等級までしかなく、支払う保険料もこの区分が最も大きくなります。
図表1
日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)
つまり、報酬月額63万5000円となる年収約760万円以上は標準報酬額65万円で頭打ちになります。そのため、兄の報酬比例部分を計算すると、65万円×5.481÷1000×396ヶ月=約141万800円にしかならず、ほんのわずかですが弟の約141万4000円におよびません。
弟の厚生年金加入期間は兄に比べ1.3倍ぐらい長いとはいえ、兄の年収は弟の2倍でした。しかし標準報酬額の上限によって、わずかですが兄の受給額は弟より少なくなってしまうのです。
まとめ
今回は年収1200万円の兄と、600万円の弟の年金受給額が逆転するケースを取り上げてみました。一般的に考えれば、厚生年金に加入している人は、現役時代の収入が多いほど年金も多くなります。
しかし、年収が約760万円を超えてくると、そこからは年収に比例して年金が増えるわけではありません。そしてその理由は標準報酬額の上限という意外なものでした。
そのため、現役時代に高い年収だった人は、年金が意外に少なくてガッカリするかもしれません。ただ、支払った保険料に見合った年金は受給できますし、高い年収を活かして、NISAやiDeCoなどを利用した資産運用も十分可能でしょう。
また、誰であっても少しでも長く働けば、老後の収支を改善できます。いずれにしても、将来もらえる年金を具体的に把握し、自分に合った対策を立てることが大切です。まずは自分の年金を試算した上で、老後の暮らしを計画してみてはいかがでしょうか。
出典
日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
日本年金機構 は行 報酬比例部分
日本年金機構 令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)
執筆者 : 松尾知真
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