「70歳から年金を月21万円もらえる」と言っていた夫が、71歳で急死…長生きできないと、結局「800万円」の“払い損”だったんですか? FPが解説する「繰り下げ受給の現実」とは

配信日: 2026.01.29
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「70歳から年金を月21万円もらえる」と言っていた夫が、71歳で急死…長生きできないと、結局「800万円」の“払い損”だったんですか? FPが解説する「繰り下げ受給の現実」とは
公的年金の受給開始時期を65歳よりも遅らせることで、受け取る年金額を増やす「繰下げ受給」。最大84%(75歳受給開始の場合)までの増額が見込めるこの制度は、老後の資金計画において魅力的な選択肢の1つといえます。
 
本記事では、制度の仕組みと具体的な試算に基づいて、繰下げ受給における「損益分岐点」と、死亡時の取り扱いに関するリスクをファイナンシャルプランナーが解説します。
南波喜憲

2級ファイナンシャルプランナー技能士

71歳死亡で「800万円の損」は本当か

前提条件として、夫が70歳からの繰下げ受給で「月額21万円」を受け取る予定だったとします。年金の繰下げ増額率は1ヶ月あたり0.7%で、70歳まで5年間(60ヶ月)繰り下げた場合の増額率は42%です。
 
ここから逆算すると、65歳時点での本来の年金額は以下のとおりです。
 
21万円÷1.42=約14万7887円(月額)
 
では、【A】65歳で受給開始していた場合と、【B】70歳まで繰り下げて71歳で死亡した場合の受給総額を比較します。
 

【A】65歳から受給開始していた場合(65~71歳の6年間):月額約14万7887円×12ヶ月×6年=約1064万7864円
 
【B】70歳から受給開始し、71歳で死亡した場合(70~71歳の1年間):月額21万円×12ヶ月×1年=252万円
 
【差額(A−B)】1064万7864円−252万円=約812万7864円

 
計算上では、確かに約812万円の差額が発生します。これは「65歳から受け取っていれば得られていたはずの機会損失」といえるでしょう。
 

損益分岐点となる「81歳の壁」

繰下げ受給を選択する際、重要な指標となるのが「損益分岐点」です。繰下げ増額率は月0.7%のため、繰り下げた期間分を取り戻すのに必要な期間は70歳から繰下げ受給を開始した場合、約11年11ヶ月となります。
 

・70歳受給開始の場合:81歳11ヶ月が損益分岐点
・75歳受給開始の場合:86歳11ヶ月が損益分岐点

 
厚生労働省の「令和6年簡易生命表」によると、日本人男性の平均寿命は81.09歳、女性は87.13歳という結果でした。男性の場合、70歳受給開始を選択した際の損益分岐点(約82歳)は、平均寿命とほぼ同等です。
 

増額分は「遺産」にならない? 遺族年金の盲点

繰下げ受給における大きなリスクの1つが、配偶者に支払われる「遺族年金」への影響です。遺族厚生年金の額は、亡くなった人の本来の年金額(65歳時点での報酬比例部分)の4分の3で計算し、繰下げによる増額分は遺族年金の計算には反映されません。
 
例えば、夫が繰下げによって老齢厚生年金を月額10万円から14万2000円に増やしていたとしても、夫の死亡後に妻に支払われる遺族厚生年金は、元の10万円をベースにした7万5000円(10万円×3/4)となります。
 
つまり、繰下げ受給によって増やした年金額は、受給者本人が生存している間のみ有効な「長生きの保険」であり、遺族に残す資産としての性質は持たないのです。
 

死亡タイミングで変わる救済ルール

死亡したタイミングが「受給開始の申出をする前」か「後」かで、取り扱いが大きく異なります。
 
繰下げ待機中(受給開始前)に死亡した場合は、遺族は「未支給年金」として、死亡時から過去5年間にさかのぼって65歳時点の本来の年金額を一括で請求できます。
 
次に、繰下げ受給開始後に死亡した場合は、すでに「増額された年金を受け取る」という選択が完了しているため、過去(65~70歳)の年金をさかのぼって請求できません。
 
受給開始申出後の早期死亡は、経済的な総受給額の観点からは損失が大きいパターンとなるでしょう。
 

繰下げ受給の判断基準を理解しよう

年金の繰下げ受給は「長生きすればするほど得をする」制度ですが、「早く亡くなると受取総額が減る」「増額分は遺族に引き継げない」というリスクが存在します。
 
最後に、繰下げ受給を検討する際の判断基準をまとめてみます。
 

・健康状態と寿命の予測:自身が損益分岐点である約82歳以上生きられる健康状態にあるかを検討
 
・配偶者の有無と年齢:増額分が遺族年金に反映されない点を考慮し、配偶者の生活費が確保できているかを確認
 
・資金の流動性:65~70歳の5年間、年金収入がゼロでも生活が破綻しないだけの貯蓄があるかどうかを確認

 
「月々の受取額が増える」という表面的なメリットだけでなく、万一の際の「総受取額の変動」や「遺族への影響」までシミュレーションした上で、受給開始時期を決定することが重要です。
 

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
厚生労働省 平均寿命の国際比較
 
執筆者 : 南波喜憲
2級ファイナンシャルプランナー技能士

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