更新日: 2020.06.11 その他年金
令和2年度年金改正法案で「年金が75歳までもらえなくなる」は間違い!どんな内容なの?
若い世代にとって、将来への不安材料の一つとして「公的年金への不安」が挙げられます。
今できることを今やるのは、もちろん大切ですが、アフターコロナを見据えた将来についても、考えるよい機会かもしれません。現在の制度と改正案、そして将来の生活に与える影響について考えてみましょう。
執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)
CFP🄬認定者・相続診断士
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/
目次
誤解の多い、年金受給開始時期の選択肢の拡大
令和2年度年金改正法案のなかで注目されるのが、年金受給開始時期の選択肢の拡大です。現状60歳から70歳の間となっている選択肢を75歳まで引き上げようとするものです。このニュースから、若い世代では、「年金が75歳までもらえない」と勘違いされるケースが多く見受けられます。
現状も改正後も、原則として、公的年金は65歳から受け取ることができます。以前は60歳でしたが、昭和60年の年金法改正により段階的に引き上げられ、現在では65歳となっています。
少子高齢化や財源状況を踏まえると、将来的にさらなる年齢引上げの可能性は否定できませんが、現時点で具体的な話には至っていません。
今回の年金受給開始時期の選択肢拡大は、あくまでも「開始時期を選ぶことができる」というものです。
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繰上げ受給と繰下げ受給とは
65歳を基準として、希望により、前倒しで受け取る「繰上げ受給」と、先延ばしにする「繰下げ受給」を、ご自身の就労状況やお財布事情によって選ぶことができます。65歳受給開始の場合と比較して、繰上げ受給は1月ごとに0.5%減額され、繰下げ受給は0.7%増額します。
例えば、老齢基礎年金がほぼ満額78万円受給できるAさんの場合を考えてみましょう(令和2年度の満額は78万1700円と決定されました)。
原則の65歳受給開始 年額78万円 →月当たり 6万5000円
60歳から繰上げ受給開始 年額54万6000円 →月当たり 4万5500円
(60ヶ月×▲0.5%=▲30%)
70歳で繰下げ受給開始 年額101万7600円 →月当たり 9万2300円
(60ヶ月×0.7%=42%)
繰上げ受給も、繰下げ受給も、一度決定すると増減率は生涯変わりません。極端な例で示しましたが、1ヶ月単位で申請することが可能です。受給開始時期をずらすことで、月当たりの年金額が変わることがご理解いただけたかと思います。
具体的にどう変わるの?
これまで最大70歳までの繰下げ受給を、75歳まで先延ばしにすることを選択できるようにしようというのが今回の改正案です。
上記の例より
75歳で繰下げ受給開始した場合 年額143万5200円 →月当たり 11万9600円
120ヶ月×0.7%=84%の増額
定年の延長や多様な働き方が進むなか、就労収入を得る、もしくは別の対策をすることで公的年金の受給を先送りし、増額された年金でその後の長い人生を豊かに過ごせるよう、体制を整備しようというものです。
終身で受け取ることができる公的年金は、寿命の延びを考えると、先延ばしにすればするほど年金額は増えることが魅力です。何歳まで生きられるかによって、最終的に損得が発生します。
あわせて知っておきたい在職老齢年金
60歳以上で在職中の老齢厚生年金受給者は、年金額と賃金(標準報酬額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となります。これを在職老齢年金といいます。
今回の改正案では、これまで60歳から64歳までに支給される特別支給の老齢厚生年金について、賃金が28万円を超えた場合に開始される支給停止が、47万円に引き上げられるとされています。
働いてもその分年金がカットされる在職老齢年金は、働く意欲に影響を与えており、改正により支給停止を気にせず働くことを選択できます。
新設の「在職一時改定」という制度
70歳未満で在職中の年金受給者にとって、給与から支払っている厚生年金保険料が年金額に反映されるのは、これまで60歳時、65歳時、70歳時の5年ごとでしたが、早期に反映させるために毎年(改正案では9月1日基準、10月からの年金額に反映)改定することなども盛り込まれています。
70歳までは、厚生年金に被保険者として加入することができます。概算では、報酬月額30万円で1年間働き、年金保険料(労使折半)を納めると、受け取る年金が年額2万円増額するといわれています。毎年増額が目に見えることで、働く意欲に繋がるかもしれません。
確定拠出年金では加入可能要件の見直しも
確定拠出年金の加入要件は、現状は、企業型については規定により65歳まで、個人型(iDeCo)については60歳ですが、それぞれ70歳未満、65歳未満へと引き上げるとともに、受給開始時期などの選択肢の拡大や制度面・手続き面での改善を図るとされています。
収入が増えるのはうれしいけど、思わぬデメリットが…
より多くの人が、より長く多様な形で働く社会へと変化しています。こうした状況を踏まえて、選択肢が拡がるのは喜ばしいことです。確定拠出の拠出期間が延長されることで、積立額も運用にかける時間も増え、より運用効果が期待できます。
ただし、運用効果や年金額が増えたことで、手取り収入が増え、税金負担や介護保険料負担などが増えることも、認識しておきたいところです。
結果的に、収支がマイナスになることのないよう、年金制度や法改正にアンテナを張りつつ、ご自身のライフデザイン(どう生きるか)について考えておきたいですね。
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士