更新日: 2021.02.22 厚生年金

加入者なら知っておきたい! 厚生年金が受給できない場合とは?

執筆者 : 遠藤功二

加入者なら知っておきたい! 厚生年金が受給できない場合とは?
日本の公的年金制度は2階建てになっており、1階部分が老齢基礎年金、2階部分が老齢厚生年金となっています。
 
実は厚生年金に関しては、全ての国民が受け取れるものではありません。「将来受け取れると思っていたけど実は対象外だった」ということがないように、厚生年金が受け取れないケースについて見ておきましょう。
遠藤功二

執筆者:遠藤功二(えんどう こうじ)

1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)CFP(R) MBA(経営学修士)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券とオーストラリア・ニュージーランド銀行の勤務経験を生かし、お金の教室「FP君」を運営。
「お金のルールは学校では学べない」ということを危惧し、家庭で学べる金融教育サービスを展開。お金が理由で不幸になる人をなくすことを目指している。

受給資格を満たさない場合

公的年金の受給開始年齢である65歳から厚生年金を受給するためには、以下の要件を満たす必要があります。
 
●基礎年金の保険料納付済み期間と保険料免除期間が合わせて10年以上ある
●厚生年金に1ヶ月以上加入している

 
ただし、男性で昭和36年4月1日以前に生まれた方、女性で昭和41年4月1日以前に生まれた方は、生年月日の区分で60歳~64歳の間に受け取れる特別支給の老齢厚生年金というものがあり、それを受け取るためには厚生年金の加入期間が1年以上必要です。
 
つまり、基礎年金の未納期間が長く、加入期間が10年に満たない方は、厚生年金の加入期間が数年程度あっても受給資格はありません。また、生涯で会社員などの経験がなく、厚生年金の加入期間が一切ない自営業者や専業主婦などの方は厚生年金を受け取れません。
 

60歳以降も働いて収入が多い方

厚生年金は、60歳以降も会社勤めをして厚生年金の被保険者となっている場合は、給与収入に応じて厚生年金の一部または全部が支給停止になります。この制度を在職老齢年金といいます。在職老齢年金の支給停止のルールは下記のとおりになっています。
 

■60歳~64歳の方の特別支給の厚生年金の支給停止について

 
<用語の説明>
 
・基本月額
加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生(退職共済)年金の月額
 
・総報酬月額相当額
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
 
在職老齢年金による調整後の年金支給月額の計算式
 
・基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円以下の場合
全額支給
 
・総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円以下の場合
【計算方法1】基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2
 
・総報酬月額相当額が47万円以下で基本月額が28万円超の場合
【計算方法2】基本月額-総報酬月額相当額÷2
 
・総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円以下の場合
【計算方法3】基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}
 
・総報酬月額相当額が47万円超で基本月額が28万円超の場合
【計算方法4】基本月額-{47万円÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}
 
※日本年金機構 「60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法」より筆者作成
 

■65歳以上の方の厚生年金の支給停止について

 
<用語の説明>
 
・基本月額
加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額
 
・総報酬月額相当額
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
 
※ 上記の「標準報酬月額」「標準賞与額」は、70歳以上の方の場合には、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」「標準賞与額に相当する額」となります。
 
在職老齢年金による調整後の年金支給月額の計算式
 
・基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合
全額支給
 
・基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超える場合
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2
 
※日本年金機構 「65歳以後の在職老齢年金の計算方法」より筆者作成。
 
なお、令和4年4月から60〜64歳の方の厚生年金の一部が支給停止になる基本月額と総報酬月額相当額の合計額の基準額は、現行の28万円から47万円に引き上げられます。
 

請求をしなければ厚生年金は受け取れない

本来、厚生年金の受給資格がある方でも、請求の手続きをしなければ年金は受け取れません。厚生年金の受給開始年齢になる3ヶ月前に、年金を受給するために必要な年金請求書が日本年金機構から送られてきます。
 
その書類を年金事務所に提出することで年金の受給が始まりますが、申請が遅れるなどして受給できるときから5年を経過した場合、年金は時効を迎えるので受け取れなくなる可能性があります。なお、年金の申請の際にはマイナンバー登録を行うか、戸籍謄本などの生年月日が分かる書類を添付する必要があります。
 

厚生年金を受け取るための対策

厚生年金の受給資格期間は1ヶ月、ないしは1年のため、基本的に受給資格を満たすことは難しくありません。問題は、基礎年金の受給資格10年の方です。基礎年金の受給資格期間が足りていない方は、60歳~70歳までの間に国民年金に任意加入するという手段があります。また、最大2年間は国民年金の未納分をさかのぼって納付することもできます。
 
在職老齢年金については、年金受給開始年齢後もまとまった収入が見込まれている方は、年金の受け取り開始を遅らせることが有効です。厚生年金は受給開始を1ヶ月遅らせるごとに受給額が0.7%増加する上、適用事業所で働くことで厚生年金の加入期間が延びる分、さらに最終的な厚生年金の受給額は増加します。
 
また、在職老齢年金は厚生年金のみの制度であり、老後に働いて収入があっても基礎年金は減額されません。厚生年金のみ受け取りを遅らせることはできます。
 

まとめ

厚生年金は公的年金ではありますが、決まった年齢になったら勝手に振り込まれるものではありません。まずは自身の受給資格を、ねんきん定期便で確認するところから始めてみましょう。
 
出典
日本年金機構 60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法
日本年金機構 65歳以後の在職老齢年金の計算方法
日本年金機構 老齢年金
日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金
日本年金機構 老齢年金の請求手続き
日本年金機構 任意加入制度
 
執筆者:遠藤功二
1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)CFP(R) MBA(経営学修士)
 

ライターさん募集