更新日: 2020.05.08 控除

雑損控除ってなに?対象となる資産・ならない資産

執筆者 : 石井美和

雑損控除ってなに?対象となる資産・ならない資産
「雑損控除」をご存じですか? 災害や盗難などの犯罪にあい、損害を被った場合に所得から一定額を控除することをいいます。所得から控除できる額があれば、税金は安くなります。
 
今回は、雑損控除について紹介します!
 
石井美和

執筆者:石井美和(いしい みわ)

中央大学法学部法律学科卒業。
20年に渡り司法書士・行政書士事務所を経営し、不動産登記・法人登記・民事法務・許認可などに携わる。また、保険代理店を併設。なお、宅建士、マンション管理士など複数の資格を保有。

雑損控除ってなに?

雑損控除とは、資産について一定の災害などにより損害を受けた場合に受けることができる所得控除のことです。
 

対象となる資産はなに?

ここでポイントは、「損害を受けた資産」は、下記の条件に当てはまる必要があるということです。
 

(1)資産の所有者が、以下のいずれかの者であること

・納税者
・納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額などが38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)の者
 

(2)「生活に通常必要でない資産」など一定のものに該当しない資産であること

この「生活に通常必要でない資産」とは、別荘、ゴルフ会員権、1個30万円を超える骨董などのことです。つまり、「生活に必要な資産の損害」については、雑損控除の対象となるけれども、趣味や娯楽のための資産については、対象とならないということです。
 

損害の原因によって違う?

では、次に、雑損控除の対象となる「損害」ですが、災害や犯罪ならすべて該当するわけではないので注意が必要です。例えば、詐欺や恐喝による被害は、雑損控除の対象となりません。
 
オレオレ詐欺で被害を受けても、雑損控除を受けることはできないということです。以下に、雑損控除の対象となる損害の原因を挙げておきます。
 

<雑損控除の対象となる損害の原因>

・震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
・火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
・害虫などの生物による異常な災害
・盗難
・横領
 

雑損控除はどのくらいの金額?

では、雑損控除を受けると、どのくらいの額を所得から控除できるのでしょうか? 次の計算式に基づき算出した額のうち、いずれか多い方の金額を控除することができます。
 
A:(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
B:(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
 

ケース1

では、具体的に雑損控除の額を計算してみましょう。
まず、住宅が落雷により被害を受けた場合の雑損控除額を計算してみましょう。住宅に対する損失額の計算については、2通りありますが、住宅の取得価額が明らかな場合で計算してみましょう。
(※なお、本記事では説明の都合上総所得金額=年収と記述する。以下同じ。)
 
条件は以下の通りです。
 
・住宅は木造、築5年
・住宅の被害は全壊
・住宅の取得価額……1000万円
・被害を受けた年の住宅の持ち主の年収……500万円
・災害などに関連したやむを得ない支出の金額や保険金などにより補てんされる金額はなし(つまり、損失額と差引損失額が一致)
 
 住宅の取得価額(1000万円-減価償却費139万5000円)×損失割合100%
=損失額860万5000円
 
 差引損失額860万5000円-総所得額500万円×10%=810万5000円
 810万5000円を所得から雑損控除することができます。
 
なお、雑損控除しきれない金額がある場合、この年以降連続して確定申告書を提出することにより、翌年以降3年間、雑損控除を繰り越して、各年の所得金額から控除することができます。
 

ケース2

次に、家財が落雷により被害を受けた場合の雑損控除額を計算してみましょう。家財に対する損失額の計算については、2通りありますが、家財の取得価額が明らかでない場合で計算してみましょう。条件は以下の通りです。
 
・被害は全損
・被害を受けた年の世帯主の年収は500万円
・家族構成…世帯主が35歳、妻、17歳の子が1人
・災害などに関連したやむを得ない支出の金額や保険金などにより補てんされる金額は無い(つまり、損失額と差引損失額が一致)
 
家族構成別家庭用財産評価額 880万円×被害割合100%=損失額880万円
 差引損失額880万円-総所得額500万円×10%=830万円
 災害関連の支出はありませんから、830万円を所得から雑損控除することができます。
 なお、家財の取得価額が明らかでないので、「家族構成別家庭用財産評価額」という基準に従い、算出します。
 

ケース3

最後に、車両が水害で被害を受けた場合について計算してみましょう。
条件は以下の通りです。
 
・車両は普通自動車(軽自動車ではない)、取得後1年経過
・被害は全損
・被害を受けた年の車両の持ち主の年収は500万円
・災害などに関連したやむを得ない支出の金額や保険金などにより補てんされる金額は無い(つまり、損失額と差引損失額が一致)
 (車両の取得価額200万円-減価償却費19万9800円)×損失割合100%
=損失額180万200円
 差引損失額180万200円-総所得額500万円×10%=130万200円
 

雑損控除を受けるための手順

雑損控除を受けるためには、次の手続きが必要です。
 
・確定申告書に雑損控除に関する事項を記載
・領収を証する書類の添付または提示(災害などに関連したやむを得ない支出の金額を支出した際の領収書など)
 

知っておきたい! 災害減免法による所得税の軽減免除

災害などによる損害を受けた年の所得金額の合計額が1000万円以下の人は、災害減免法による所得税の軽減免除を受けることができます。
 
ただし、災害減免法による所得税の軽減免除は、雑損控除と重ねて受けることはできません。納税者が、災害減免法による所得税の軽減免除か、雑損控除かどちらかを選ぶことができます。
 

<災害減免法により軽減または免除される所得税の額> 


 

Q&A

差引損失額ってなんですか?

ところで、先述した雑損控除額の計算ででてきた「差引損失額」とは、どのような意味でしょうか? これは、災害などにより損害を受けた額および支出の額から、保険金などを差し引いた額のことをいいます。計算式は以下となります。
 
差引損失額=損害金額+災害などに関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補てんされる金額
 

まとめ

災害・盗難などによる損害を受けたときは、損害保険による補償を思い出す方が多いのではないでしょうか? しかし、所得税を安くする方法があれば、それに越したことはありません。
 
雑損控除について知識があれば、万一のときも安心です。備えあれば憂いなし。お金に関する知識も備えていきましょう。
 
[出典]
国税庁「災害により被害を受けられた方へ」
国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
 
執筆者:石井美和
中央大学法学部法律学科卒業。
20年に渡り司法書士・行政書士事務所を経営し、不動産登記・法人登記・民事法務・許認可などに携わる。また、保険代理店を併設。なお、宅建士、マンション管理士など複数の資格を保有。


 

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