更新日: 2020.08.26 控除

今さら聞けないけど損はしたくない! 知っておきたい「生命保険料控除」

今さら聞けないけど損はしたくない! 知っておきたい「生命保険料控除」
給与明細を見ると額面金額から引かれているのが、社会保険料と税金です。「少しでも引かれた税金を取り戻したい」という希望をお持ちの方も多いのではないでしょうか。とはいえ、個人事業主の方と比較して、会社員の方が利用できる税額軽減の策は限られています。
 
このコラムでは、多くの会社員の方が利用できる手軽な税額軽減策の1つ、「生命保険料控除」について解説していきます。
遠藤功二

執筆者:遠藤功二(えんどう こうじ)

1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)CFP(R) MBA(経営学修士)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券とオーストラリア・ニュージーランド銀行の勤務経験を生かし、お金の教室「FP君」を運営。
「お金のルールは学校では学べない」ということを危惧し、家庭で学べる金融教育サービスを展開。お金が理由で不幸になる人をなくすことを目指している。

生命保険料控除とは

生命保険料控除の概要

生命保険料控除とは、生命保険料を払った場合に所得税、住民税の計算上、一定の金額を年間の所得から差し引くことができる制度です。
 
このように、税金の対象となる所得金額から一定の金額を控除できる制度を「所得控除」といいます。所得控除には生命保険料控除の他に、代表的なものとして社会保険料控除、配偶者控除、基礎控除などがあります。
 
税額自体が減額される「税額控除」と混同しないように注意しましょう。
 

旧制度と新制度とは

生命保険料控除の適用できる金額は、保険商品の種類と保険を契約した時期によって異なります。2011年12月31日以前の契約分の保険は旧制度が適用され、2012年1月1日以降の契約分の保険は新制度が適用されます。また、所得税と住民税で控除できる金額は異なります。旧制度と新制度の主な変更点は、次のとおりです。

旧制度 新制度
控除の種類 一般生命保険料控除、
個人年金保険料控除
の2種類
一般生命保険料控除、
介護医療保険料控除、
個人年金保険料控除
の3種類
控除上限金額 一般生命保険料控除、個人年金保険料控除を合わせた上限:
所得税10万円
住民税7万円
一般生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除を合わせた上限:
所得税12万円
住民税7万円

控除額はどれくらい?

以下、所得税と住民税に適用される生命保険料控除の旧制度・新制度の内容についての表を記載します。

所得税

旧制度:2011年12月31日以前の契約分

支払保険料等の区分 支払保険料等の区分 控除額
A:一般の生命保険料のみの場合 2万5000円以下 支払保険料等の全額
A:一般の生命保険料のみの場合 2万5000円超5万円以下 支払保険料等×1/2+1万2500円
A:一般の生命保険料のみの場合 5万円超10万円以下 支払保険料等×1/4+2万5000円
A:一般の生命保険料のみの場合 10万円超 一律5万円
B:個人年金保険料のみの場合 Aと同じ計算方法
C:AとBが両方ある場合 AとBの合計額だが上限は10万円

 
新制度:2012年1月1日以後の契約分

支払保険料等の区分 支払保険料等の区分 控除額
A:一般の生命保険料のみの場合 2万円以下 支払保険料等の全額
A:一般の生命保険料のみの場合 2万円超4万円以下 支払保険料等×1/2+1万円
A:一般の生命保険料のみの場合 4万円超8万円以下 支払保険料等×1/4+2万円
A:一般の生命保険料のみの場合 8万円超 一律4万円
B:個人年金保険料のみの場合 Aと同じ計算方法
C:介護医療保険料のみの場合 Aと同じ計算方法
D:AとBとCが両方ある場合 AとBとCの合計額だが上限は12万円

住民税

旧制度:2011年12月31日以前の契約分

支払保険料等の区分 支払保険料等の区分 控除額
A:一般の生命保険料のみの場合 1万5000円以下 支払保険料等の全額
A:一般の生命保険料のみの場合 1万5000円超4万円以下 支払保険料等×1/2+7500円
A:一般の生命保険料のみの場合 4万円超7万円以下 支払保険料等×1/4+1万7500円
A:一般の生命保険料のみの場合 7万円超 一律3万5000円
B:個人年金保険料のみの場合 Aと同じ計算方法
C:AとBが両方ある場合 AとBの合計額だが上限は7万円

 
新制度:2012年1月1日以後の契約分

支払い保険料等の区分 支払い保険料等の区分 控除額
A:一般の生命保険料のみの場合 1万2000円以下 支払保険料等の全額
A:一般の生命保険料のみの場合 1万2000円超3万2000円以下 支払保険料等×1/2+6000円
A:一般の生命保険料のみの場合 3万2,000円超5万6000円以下 支払保険料等×1/4+1万4000円
A:一般の生命保険料のみの場合 5万6000円超 一律2万8000円
B:個人年金保険料のみの場合 Aと同じ計算方法
C:介護医療保険料のみの場合 Aと同じ計算方法
D:AとBとCがある場合 AとBとCの合計額だが上限は7万円

※国税庁ホームページ「No.1140 生命保険料控除」、一般社団法人 金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能士センター(著、編集)「個人の税金ガイドブック2019年度版」を基に筆者作成
 

実は地震保険料も控除対象になる

マイホームをお持ちの方で、地震保険に加入している方は地震保険料控除も利用することができます。地震保険は、生命保険ではなく損害保険になりますが、支払った保険料の一定額が所得控除になる地震保険料控除という制度があります。以下に補足として地震保険料控除の表を記載します。

区分 年間の支払保険料の合計 控除額
地震保険料 5万円以下 支払金額の全額
地震保険料 5万円超 一律5万円

※国税庁ホームページ「No1145 地震保険料控除」を基に筆者作成
 

控除額のシミュレーション

「生命保険料控除のルールは分かったけど、実際に自分の税金がどのくらい減額されるのか知りたい」というお声はよく聞きます。
そこで、所得控除の納税額の減額効果を簡易的に計算する方法をご紹介します。
 

旧制度と新制度の両方を契約している場合

まず、旧制度の生命保険と新制度の生命保険の両方をお持ちの方は、一般の生命保険料控除と個人年金保険料控除について、旧制度と新制度で各々計算し、足し合わせることができます。これを聞くと、旧制度の上限額10万円と新制度の上限額12万円、合わせて22万円の所得控除ができるのでは? と期待される方も多いと思います。
 
しかし、そうではありません。
 
「一般」と「個人年金」それぞれの生命保険料控除の金額は、旧制度分と新制度分を合わせて所得税で4万円、住民税で2万8000円までとなります。
 
つまり、旧制度と新制度の両方の生命保険を保有していても、結局のところ「一般」と「個人年金」の新旧の控除額の合計額と「介護医療」の控除額を合わせても、生命保険料控除全体で所得税は12万円、住民税は7万円までしか適用できないということになります。
 

新制度のみ契約の場合のシミュレーション

ここからは、数字で納税額の減額のイメージが掴めるよう具体的な計算をしていきます。
 
●所得税の減額効果
生命保険料控除の減額効果の簡易的な計算式は次のとおりです。
 
生命保険料控除の金額×所得税率=生命保険料控除によって減額される税額
 
例えば、あなたの生命保険料控除が新制度の上限額12万円で、所得税の税率が20%の場合、2万4000円が減額される税額になります。
 
計算式:12万円×20%=2万4000円
 
●住民税の減額効果
住民税は所得金額に応じて課税される所得割と、定められた額で一律に課税される均等割に分類されます。
 
生命保険料控除によって減額されるのは、所得割部分になります。所得割の金額はお住まいのエリアによって異なりますが、地方自治体が課税する際に通常用いることとされている標準税率というものがあります。標準税率は、都道府県民税と市町村民税の合計で10%となります。
 
もし、あなたの生命保険料控除額が新制度の最高額7万円で、あなたのお住まいのエリアの住民税の所得割の税率が10%の場合、7000円が減額される税額になります。
 
計算式:7万×10%=7000円
 

旧制度のみ契約の場合のシミュレーション

続いて、旧制度の生命保険のみを保有している場合の減税額を見てみましょう。
 
●所得税の減額効果
計算式の考え方は、新制度のときと同じです。
 
生命保険料控除の金額×所得税率=生命保険料控除によって減額される税額
 
例えば、あなたの生命保険料控除が旧制度の最高額10万円で、所得税の税率が20%の場合、2万円が減額される税額になります。
 
計算式:10万円×20%=2万円
 
●住民税の減額効果
もし、あなたの生命保険料控除が旧制度の最高額7万円で、お住まいのエリアの住民税の所得割の税率が10%の場合、7000円が減額される税額になります。
 
計算式:7万×10%=7000円
 

生命保険料控除の申請方法

ここからは、実際に生命保険料控除を申請する場合の方法をお伝えしていきます。申請方法は、年末調整を行う会社員の方と確定申告を行う自営業の方で異なります。

会社員

年末調整で生命保険料控除の手続きを行うことができます。生命保険会社から届く「生命保険料控除証明書」を「給与所得者の保険料控除申告書」に添付して、勤務先に提出します。生命保険料控除証明書は通常、10月〜11月の時期に生命保険会社から郵送で届きます。うっかり捨ててしまわないよう、気をつけましょう。
 
また、年収が2000万円以上の方は確定申告のときに生命保険料控除を行う必要があります。次の自営業の方向けの説明を参考にしてください。

自営業

自営業の方は、翌年の2月16日〜3月15日までの間に確定申告で生命保険料控除の手続きを行うことができます。
 
確定申告書の「所得から差し引かれる金額」欄にある「生命保険料控除」欄に金額を記入しますが、ここで注意すべきことは「生命保険料控除証明書」の金額をそのまま記入するわけではなく、先述した計算式に基づいた控除額を記入する必要があるということです。
 
例えば、「生命保険料控除証明書」に年間の支払保険料の金額が20万円と書かれていたとしても、その生命保険が一般の生命保険であれば、控除額は一般の生命保険料控除の上限額である4万円になります。
 
他に介護医療、個人年金に分類される保険もあれば同様に計算して、足し合わせた数字を記入します。もし、足し合わせた金額が12万円を超えていたら、計算が間違っているということになります。
 

生命保険料控除の注意点

では、生命保険料控除証明書をなくしてしまったり、金額を間違えたまま申告を済ませてしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。

生命保険料控除証明書をなくした場合

万が一、生命保険料控除証明書をなくしてしまった場合、全く慌てる必要はありません。生命保険会社に連絡すれば大抵は再発行をしてくれます。
 
ただし、再発行に一定の日数が生じるため、タイミングによっては勤務先の年末調整の書類の提出手続きに間に合わなくなるリスクはあります。年末調整の手続きの前に、必要書類が手元に揃っているかを早めに確認するようにしましょう。

金額を間違えて申告した場合

年末調整や確定申告をした後に生命保険料控除証明書が出てきた、ということは起こりがちです。その場合は、税金の還付を請求することができます。
 
会社員の方で年末調整をしているが確定申告はしていないという場合は「還付申告」、自営業者など確定申告をしている方は「更生の請求」という手続きで納め過ぎていた税金の還付を受けることができます。どちらも税務署で手続きを行う必要があります。会社員の方も、期限を過ぎた年末調整の手続きは勤務先では対応できないことを認識しておきましょう。
 

まとめ

生命保険料控除は、基礎控除や社会保険料控除などの所得控除とは異なり、勤務先が自動的に手続きを進めてくれるというものではありません。手続きが一見難しそうに見え、「1度も提出したことがない」とおっしゃる方もおられますが、生命保険料控除は非常に手軽にできる税額軽減の方法です。
 
納税額の軽減策が限られている会社員の方は、是非とも活用してみてください。
 
出典
国税庁 No.1140 生命保険料控除
一般社団法人 金融財政事情研究会
国税庁 No.1145 地震保険料控除
 
執筆者:遠藤功二
1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)CFP(R) MBA(経営学修士)


 

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