更新日: 2020.09.02 確定申告

事業所得と雑所得の違いって?令和2年分の確定申告書から新設された「業務」区分って何?

執筆者 : 星田直太

事業所得と雑所得の違いって?令和2年分の確定申告書から新設された「業務」区分って何?
新型コロナウイルス経済対策として実施されている持続化給付金の申請では、個人で仕事をしている方の所得が所得税法上の「事業所得」なのか「雑所得」なのかについて判断を求められたことから、その所得区分が一般的にも注目されました。
 
また、令和2年分の確定申告書用紙が国税庁より公開されましたが(※)、「雑所得」の欄には新たに「業務」という区分が設けられました。それでは、「事業」と「業務」とは何が異なるのでしょうか。
 
この点についてモヤモヤする方も多いと思います。そこで本稿では、わかるようでわからなかった「事業所得」と「雑所得」との区分について、簡単に述べていきます。

星田直太

執筆者:星田直太(ほしだ なおた)

税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))

一般企業勤務を経て、30代から税務会計の世界に入り、税理士とCFPの資格を取得。

税理士法人勤務時には法人税務顧問、ベンチャー支援、事業再生、相続・事業承継といった多様な業務に従事。公的機関での勤務も経験した後、2014年に独立。現在は西新宿に税理士事務所を開業している。

中小企業向けの講演多数。他の専門家とも多く提携しており、ワンストップでお客様のお悩みに対応できる体制を構築している。

事業所得とは

事業所得とは、「事業を営んでいる人の、その事業から生ずる所得」です。それはそうだろう、という声が聞こえてくるような説明文ですね。
 
問題は、ある収入を得る行為が「事業」といえるか否か、という点にあるのですが、これについては後述します。なお、不動産の貸付けを事業として営んでいる場合は、事業所得ではなく不動産所得という区分になりますので、注意が必要です。
 
事業所得にはいくつか特徴があります。大きな点としては、以下のとおりです。
(1) 他の所得との損益通算が可能
(2) 青色申告の選択が可能
 
(1)の損益通算とは、事業で損失が生じた(赤字になった)場合に、一定のルールの下で他の所得から控除をすることができる制度です。例えば、事業所得で赤字になってしまったものの、他に給与所得がある場合は、その事業所得の赤字分を給与所得から控除できますので、全体としての課税所得が減少し、税額も安くなります。
 
(2)の青色申告については事前の申請が必要ですが、さまざまな特典があります。代表的なものは、「青色申告特別控除」や「純損失の繰越控除」です。
 
「青色申告特別控除」は、記帳の状況に応じて10万円または65万円(令和2年分以後の所得税については、原則55万円)の特別控除を受けることができるもので、所得を減少させるものですから、節税効果があります。「純損失の繰越控除」は、先に述べた損益通算でも控除しきれなかった損失が残ってしまった場合に、翌年以後3年間にわたって繰り越せるというものです。

雑所得とは

雑所得とは、「他の9種類の所得いずれにも該当しない、その他の所得」です。一見すると「業務」とは関係がなさそうですね。ところが、「業務」は「事業」ではないので、業務から生じた所得は事業所得として取り扱うことができず、さらにその他の8種類の所得区分にも該当するものがないので、雑所得として区分されることになるのです。
 
雑所得とされた場合、事業所得の特徴として挙げた(1)損益通算や、(2)青色申告の適用を受けることができません。そのため、事業所得に区分される「事業」か、それとも雑所得に区分される「業務」か、といった問題は軽視できるものではないのです。

どのように区分する?

それでは、「事業」と「業務」をどのように区分するのでしょうか。「金額がいくら以上だったら事業」といったわかりやすい要件はなく、税務署に開業届を提出すれば必ず「事業」として取り扱われるというものでもありません。
 
実態によって判断されますので、この点が難しいところです。課税当局によって区分の誤りを指摘され、納税者との間で争いになることもあります。
 
判例によれば、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」を事業所得というとされています(最高裁昭和56年4月24日判決)。ちょっとわかりにくいかもしれませんね。
 
国税不服審判所という機関が出した裁決というものもあります。これによれば、事業といえるためには「社会通念上事業といえる程度の規模・態様」が必要であるとしています(平成26年9月1日裁決)。
 
誤解を恐れずに簡略化すれば、事業といえるためには一定の規模感等が必要ということです。例えば、精神的・肉体的労務の投入程度や人的・物的設備の有無などが規模感の判断要素とされ、これに対象者の社会的地位等を総合的に勘案して、事業であるか否かを決することと判断されました。
 
皆さんに関心があるのは、「副業はどのような所得区分になるのか」ということかもしれません。副業ということは、他に主たる仕事があることになります。
 
とすれば、例えばその副業に投入している精神的・肉体的労務の程度はそれほど大きくないかもしれず、社会的地位は主たる仕事によって築かれているのかもしれません。そのような場合は、その副業を「事業」とすること、つまり「事業所得」として取り扱うことは困難である可能性が高いでしょう。
 
このように、事業所得か雑所得かの区分は、事実関係の把握と検討、場合によっては微妙な判断を要します。そのため、「判断が難しいな」と思う場合は、税理士に相談することをお勧めします。

おわりに

働き方の多様化に伴い、個人の収入源が複数あることが珍しくなくなりつつあります。これまで給与所得しかなく年末調整によって課税関係が完結していた方は、確定申告はなじみがないかもしれませんが、副業について適正な確定申告を行うことを忘れないようにしましょう。
 
(※)国税庁「令和2年分 確定申告に関する様式等」
 
執筆者:星田直太
税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))


 

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