「退職金1500万円」でNISAを始めたいという父親。本人は「年5%で増えるから」というのですが、本当に投資を始めて大丈夫でしょうか?
確かに、NISAによる資産運用で「年率5%」という数字は、決して非現実的ではありません。ただし、それはあくまでも長期的な投資における平均リターンの話であり、「毎年必ず5%増える」という意味ではないことに注意が必要です。
本記事では、退職金のようなまとまった資金を投資に回す際の注意点を解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
目次
退職金1500万円を年率5%で運用したらいくらになる?
60歳から1500万円を一括で投資に回し、年率5%で運用できた場合、10年後の70歳時点で資産は約2443万円、20年後の80歳時点では約3980万円に増えます。NISAを利用すれば運用益は非課税ですので、この金額をそのまま手にすることができます。
実際には、NISAには年間360万円までという投資限度額があるため、一度に1500万円を投資することはできません。最速でNISAに振り分けたい場合、毎年、限度額の360万円を4~5年かけて投資していくことになります。やや面倒ですが、その手間を考えても、前記の資産の増加額を魅力に思う人は多いでしょう。
とはいえ、「年率5%」という数字は、どこまで現実的なのでしょうか。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公表している資産別リターンの見通しでは、国内株式で4.0~7.5%、外国株式で4.6~8.1%程度の利回りが想定されています。
国内株と外国株を半分ずつ組み合わせれば、理論上は4.3~7.8%のリターンが期待できる計算です。各証券会社は、日本株や外国株に広く投資できる投資信託を用意しており、これらを使えば投資初心者でも年率5%前後のリターンを狙うことは十分現実的といえるでしょう。
「年率5%」は平均であり、毎年必ず増えるわけではない
注意すべきは、「年率5%」などというときの数字は、あくまで「平均値」である点です。株式市場は上がったり下がったりを繰り返すため、直線的に右肩上がりになるわけではありません。例えば、10%以上増える年もあれば、1%しか増えない年もありますし、1年間を通してマイナスになる年も出てきます。
過去の例では、2008年のリーマンショック時には、全世界株式が50%近く下落しました。このような暴落のタイミングでまとまったお金が必要になった場合、資産が大きく減った状態で運用している金融商品を売却することになるため、特に注意が必要です。
長期的に見れば平均で年率5%程度のリターンを得られる可能性はありますが、途中の値動きの荒さを受け止めなければなりません。
退職金をNISAに回すなら「15年以上使わない余剰資金」に限定すべき
退職金は、老後の生活の支えとなる大切なお金です。退職金をNISAで運用したいのなら、1つの目安として、「15年以上は手をつけないで済む余剰資金」だけを使って投資すると良いでしょう。
年率5%で運用できた場合、資産が倍になるのは14~15年ほどたったタイミングです。理論的には資産が倍になったタイミング以降であれば、リーマンショック級の大暴落がきても元本割れとならないわけで、15年がこの目安となります。
だからこそ、「今後15年以上は使わないで済む金額」を慎重に計算し、その範囲内でNISA投資を行うのが現実的といえるでしょう。
老後の生活を想像すれば、生活費の補てん、将来の医療費、住宅の修繕費など、必ず現金で備えておきたい支出があるはずです。60歳以降も働くかどうか、年金をいつから・いくら受け取れるのか、といったライフプランと一緒に考えつつ、15年間は確実に置いておけるお金に限定してNISAによる資産運用を行いましょう。
NISA投資は「毎年5%増える」は誤り。「余剰資金で長期運用」を
60歳からでもNISAを使った投資は、決して遅くはありません。株式中心の長期投資であれば、平均して年率5%前後のリターンを狙うことは十分現実的で、やるかやらないかで20年後や30年後には大きな差が出る可能性があります。
ただし、「毎年必ず5%増える」と考えるのは誤りであり、「年率5%」は長期投資における平均値であることを頭に置いておきましょう。場合によっては、元本割れを起こす可能性もあります。
したがって、退職金を全て投資に回すのではなく、生活費や医療費などの備えを差し引いたうえで、目安として15年以上使わない余剰資金だけをNISAに振り分けると良いでしょう。
退職金は、老後の生活のための大切な資金です。甘い言葉に踊らされて「全額NISAで投資を」と安易に考えるのではなく、使い道をしっかり検討したうえで有益に使えるといいですね。
出典
金融庁 NISA特設ウェブサイト NISAを知る
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 第5期中期目標期間における基本ポートフォリオについて~詳細~
執筆者 : 浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
