60代で「退職金2000万円」を受け取り。300万~500万円を「新NISA+高配当ETF」に回せたら、毎年いくらもらえますか? 配当収入をシミュレーション
本記事では、退職金の一部を新NISAと高配当ETFで運用した場合に、どの程度の配当収入が期待できるのかをシミュレーションし、老後資金づくりの選択肢を考えていきます。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
目次
退職金の現実と運用に回せる金額
中央労働委員会の「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」によれば、大企業・大学卒・満勤で定年退職の平均は、約2139万6000円、大企業・高校卒・満勤で定年退職の平均は、約2019万9000円です。
一見するとまとまった金額に思えますが、住宅ローンや教育費などの出費を差し引くと、自由に使える部分は意外に少ないのが現実です。さらに、総務省統計局の家計調査年報(貯蓄・負債編)2024年(令和6年)によれば、二人以上世帯の負債の中央値は1480万円に達しています。この負債の内訳の多くは、住宅ローンが占めていると推定できます。
こうした事情を踏まえると、実際に投資へ振り向けられる退職金は、2000万円のうち、300万~500万円程度にとどまる家庭が少なくないと考えられます。
新NISAを活用するメリット
2024年から始まった新NISAは、従来に比べて非課税枠が大幅に拡充されました。「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を併用でき、年間上限は360万円、生涯では1800万円(成長投資枠は1200万円まで)まで非課税、保有期間も無期限となり、長期投資にとって圧倒的に有利な制度に変わりました。
ETFとは? 株と投資信託の「いいとこ取り」
ETF(上場投資信託)は、株式や債券など複数の資産をひとまとめにして「1銘柄」として証券取引所に上場されている商品です。株式と同じように市場ではリアルタイムで売買ができ、少額から分散投資が可能です。
例えば、「日本の高配当株ETF」なら、数十~百社規模の企業に自動的に分散投資できますし、「米国ETF」ならアップルやマイクロソフトのような世界的企業をまとめてカバーできます。ETFを一言でいえば、「投資信託の分散性」と「株式の売買しやすさ」をあわせ持つ金融商品です。
高配当ETFによる配当収入シミュレーション
では、実際にどれほどの配当収入が見込めるのでしょうか。
新NISAと共に注目を集めている「高配当株ETF」には、野村アセットが運用するNEXT FUNDS(NF)シリーズの「日経高配当50 ETF」「日本株高配当70 ETF」「株主還元70 ETF」「日本高配当株アクティブETF」といった人気商品があります。
これらのETFは、直近実績でも3%を超える利回りを示すケースが多く、今回のシミュレーションを考える上でも参考になる商品です。
仮に300万~500万円を高配当ETF(新NISAの成長投資枠の対象)に投資し、年利回り2~3%を想定すると、以下のようになります。
・投資額300万円:年間配当6万~9万円(毎月5000~7500円前後)
・投資額500万円:年間配当10万~15万円(毎月8000~1万2000円前後)
光熱費や旅行費をまるごと賄うには、少し足りないかもしれません。しかし、配当を再投資に回せば、「複利」の力で将来の配当額は着実に増えていきます。例えば、年3%の利回りで20年間再投資を続ければ、300万円は約540万円に成長します。
その結果、配当も年間6万円から16万円程度に増加し、毎年の収入がじわじわと拡大していきます。単なる「もらって終わり」ではなく、「次の収入を生む仕組み」に育てていける点が高配当ETFの大きな魅力です。
シミュレーション結果に対する新NISAの非課税効果はどうなる?
今回シミュレーションで取り上げた高配当ETFは、新NISAの「成長投資枠」に分類されます。この枠は年間240万円、最大で生涯1200万円まで投資できる仕組みです。300万~500万円を高配当ETFに投資するシミュレーションは、成長投資枠の範囲内に収まるため、そこで得られる配当金や売却益は「すべて非課税」となります。
通常なら20%以上差し引かれる税金がそのまま手取りになるため、複利効果を一層強められます。
退職金を「安定収入源に変える」という発想
退職金は一度きりの大きなお金であり、その使い道をどう選ぶかで老後の安心度は大きく変わります。預金に置いておくだけではインフレで目減りする可能性がありますが、たとえ少額でも、高配当ETFや新NISAを活用すれば、退職金を「減るお金」から「生み出すお金」へと変えることが可能です。
ポイントは、退職金を単なる「一時金」で終わらせず、安定的に生活を支える資産に育てていく発想です。
出典
厚生労働省 中央労働委員会 「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」調査結果の概要
総務省統計局 家計調査年報(貯蓄・負債編)2024年(令和6年)貯蓄・負債の概要
執筆者 : 諸岡拓也
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
