個人投資家が持っている為替リスクとの付き合い方

配信日: 2019.06.13

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個人投資家が持っている為替リスクとの付き合い方
前回と前々回の2回にわたり、外国債券(外債)とはどういうものか、そして外債に投資する際の留意点は何かについて書いてきました。今の時代、個人の資産運用においても国際分散投資は肝であり、そこでは外債も運用選択肢の一つとなりうるためです。
 
ただし、外債であれ、他の外貨建て商品であれ、「為替リスク」はどうしても存在します。個人の投資家はこの為替リスクとどううまく付き合っていけば良いのでしょうか?
 
北垣愛

執筆者:北垣愛(きたがき あい)

マネー・マーケット・アドバイザー

証券アナリスト、FP1級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級
国内外の金融機関で、マーケットに関わる仕事に長らく従事。
現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、マーケットに関する情報等を発信している。
http://marketoinfo.fun/

予測の難しい将来の為替相場

改めて為替リスクとは、為替相場の変動によって、外貨建て商品の円ベースの資産価値も変動することです。
 
例えば、米ドル建ての株式が10%上昇したとしても、同時期にドル円の為替が10%以上円高となってしまうと(=米ドルが対円で10%以上の下落)、円に換算したときの株価は下落してしまいます。
 
為替の変動は時に非常に大きく、ドル円では、リーマンショックを挟んで120円超の水準から2011年には75円台にまで円高となりました。同時期の豪ドル円の動きはさらに激しく、107円台から2009年には一時56円台へとほぼ価値が半減しました。
 
この際の値動きは特別に大きかったのだとしても、為替の動き次第では現地通貨ベースでこつこつ稼いだ利回りなどは簡単に吹き飛ばされることは、やはり認識しておく必要があります。もちろん、運用中に逆に円安となれば、円ベースでの利回りはかさ上げされます。
 
それなら、円高のときに外貨建て商品に投資をすればいいではないか、と思いたくもなりますが、それは実際には簡単な話ではありません。
 
為替を予想するのは、プロでも非常に困難です。為替予想には経常収支などといった指標が役立つと一般的に言われますが、経常収支が示唆する実需の取引が為替市場全体に占める割合は、実は非常に小さいのです。
 
取引の大半は実需に基づかないものとなっており、それらは各国の金利差や経済力格差、政治的あるいは地政学的な動き等といったさまざまな要因を見比べながら、瞬時に資金を移動させます。
 
また言うまでもなく、先の為替になるほど、想定外の紛争や気象、テロなどの出来事にも翻弄されることになります。個人の投資家で、特に長期投資を行う人にとっては、為替相場予想よりも確実なリスク対応の方法が必要であると言えます。
 

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為替ヘッジという選択もあるが、コストに注意

為替の影響を抑える、「為替ヘッジ」と呼ばれる方法もあります。実際には個人投資家が自身で行うことは難しいのですが、投資信託などでは為替ヘッジがついているものもあります。それに投資をすれば、為替の影響を低減させながら、外貨建て商品で運用を行うことも可能となります。
 
ただ留意すべき点として、為替ヘッジにはコストがかかります。このコストは、現地通貨国と日本との短期金利格差と需給で決定し、米ドルの場合は現在年間2.5%超となっています。
 
今のような低金利の時代には特にばかにできません。足元の米国10年債金利は2.46%程度であり、つまりヘッジをかければ米国10年債の運用利回りはマイナスとなってしまう水準なのです。
 
新興国などではさらに高金利の国が多いので、ヘッジがついている投資信託等を選ぶ際には注意が必要となります。一方、ユーロ圏の短期金利は現状日本以上に低いので、ヘッジコストは運用利回りをわずかながら押し上げる方向に働いています。
 

為替リスクとの王道の付き合い方とは?

では、為替予想に賭けたり、ヘッジ付き投信を購入するのが良い戦略とならない場合、個人投資家が為替リスクをコントロールする方法はないのでしょうか。まさに、王道の、また個人投資家だからこそ、の戦略があります。
 
それは、時間を味方につけるというものです。過去30年ほどの為替の値動きを見てみると、ある程度サイクルがあることが分かります。
 
国の信用力が大きく失墜するなどといった例を除けば、円高と円安は数年をかけて交互にやってきます。これを利用して、外貨商品は現地通貨ベースで増やすことをまず考えるのです。
 
そして、運用商品が償還を迎えたり売却したりして資金が手元に戻ったときに円高になっていれば、現地通貨のままで、新たにまた運用を行います。
 
円に戻すのは、円安のサイクルがまた巡ってくるときを待つのです。そうすれば、為替相場による損失をうまく回避できる可能性が高まります。
 
ただ、この戦略を行うために一つ重要なことは、運用資金は少なくとも数年間は使う予定のないお金であることです。時間を味方につけるには、時間の制約がある資金ではできないということです。
 
また投資信託の場合は、償還や売却をすると必ず円で資金が戻ってくるものも多くあり、これについても同戦略は使うことができません。時間を味方につけても、為替リスクを全て解消できるわけではありません。
 
しかし、分散投資という観点からは、円建ての商品しか持っていないというのもまたリスクなのです。
 
為替リスクの存在は腹に収めたうえで、長期的に期待が持て、かつ世界での取引量も多い通貨を複数選び、それぞれの通貨ベースで長期的に資産を増やしていくような運用が理想的だと思います。
 
※5/9執筆時点による
 
執筆者:北垣愛(きたがき あい)
マネー・マーケット・アドバイザー
 

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