「株価下落でも利益が出る」と聞いた“優待クロス取引”…本当に「ノーリスクで優待だけもらえる」の? FPが解説

配信日: 2025.10.12
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「株価下落でも利益が出る」と聞いた“優待クロス取引”…本当に「ノーリスクで優待だけもらえる」の? FPが解説
株主優待をもらうには株を保有する必要がありますが、株価が下がれば損をするリスクが避けられません。そこで注目されるのが「優待クロス取引」です。
 
現物買いと信用売りを同時に行い、株価変動リスクを相殺することで、手数料だけで優待を得られる仕組みです。ただし、配当や逆日歩といった制度上の注意点もあり、思わぬコストで損をするケースがあります。
 
本記事では、優待クロス取引の基本から注意すべきコストまで、分かりやすく解説します。
諸岡拓也

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

優待クロス取引とは?

優待クロス取引とは、同じ株を「現物買い」と「信用売り」で同時に取引する方法です。現物買いをすると、株主優待の権利が得られます。さらに信用売りを同時にすると、株価が下がった場合の損失を打ち消せます。
 
つまり、株価の値動きを気にせずに優待だけを受け取れる仕組みです。飲食チェーンや小売業の人気優待も、この方法を使えば安心して受け取れます。
 
なお、ここで出てきた「信用売り」は、信用取引という仕組みを利用しています。初心者には少し分かりにくい仕組みなので、次で詳しく見ていきましょう。
 

信用取引とは?

信用取引とは、証券会社に保証金を預けることで、手持ち資金以上の取引ができる仕組みです。大きく分けて「信用買い」と「信用売り」の2種類があります。
 

・信用買い:証券会社からお金を借りて株を買う方法。自己資金より大きな金額の株を購入できる。
・信用売り(空売り):証券会社から株を借りて先に売り、後で買い戻して返す方法。株価が下がれば利益になる。

 
このうち、優待クロス取引で使うのは「信用売り」です。
 
例えば、1000円の株を借りて売り、800円に下がったときに買い戻せば、差額の200円が利益になります。優待クロス取引では、この信用取引を利用して「株価が下がった場合の損失を打ち消す」役割を果たします。ただし、人気の銘柄は利用希望者が多いため、証券会社に借りられる株が残っていないと取引できない場合があります。
 

優待クロス取引で注意すべきコスト

優待クロス取引は、株価変動リスクを抑えられますが、一方で必ずコストが発生します。株取引なので、売買手数料は当然かかります。これは通常の取引でも同じです。ここでは、優待クロス取引で特に注意すべきコストを解説します。
 

貸株料

貸株料とは、信用売りで株を借りるときにかかる費用です。投資家は証券会社から株を借りて売却し、その際に貸株料を支払います。
 
株を借りるためには、現金や株式などを委託保証金として証券会社に預ける仕組みになっており、通常の株取引とは異なる点です。
 
貸株料は、一般的に年率1.10%前後に設定されています。ただし、これは1年間借りた場合の割合です。実際の優待クロスは数日~数週間の保有が多いため、負担はさらに小さくなります。目安として、日割りで計算すると株価に対して0.03~0.09%程度の小さな水準です。
 

制度信用で発生する逆日歩(品貸料)

優待クロス取引で特に注意したいのが、制度信用取引で発生する逆日歩(ぎゃくひぶ)です。実は、信用取引には「制度信用」と「一般信用」の2種類があります。制度信用は、証券取引所のルールに基づく取引で、証券金融会社から株を調達します。
 
そのため、株不足が起きると逆日歩という追加費用が発生します。逆日歩とは、品貸料(しながしりょう)と呼ばれるもので、株を借りたい人が多く、株が不足したときに発生する追加費用です。
 
逆日歩は「制度信用」でのみ発生する費用であり、「一般信用」ではあらかじめ貸株料が定められているため、逆日歩という形の追加コストはかかりません。証券会社の注文画面では「一般信用」と「制度信用」を選べるので、クロス取引では「一般信用」を選ぶことが大切です。
 

配当落調整金

優待クロス取引では、配当を丸ごと受け取れるわけではありません。信用売りを使った取引では、配当相当額を配当落調整金(はいとうおちちょうせいきん)として支払う仕組みがあります。
 
これは、株を貸している投資家が本来受け取れるはずだった配当を補うために設定された制度です。 そのため、現物株で受け取る配当と、信用売りで支払う配当落調整金がほぼ同額となり、実質的には配当が残らないケースが一般的です。特に高配当株では、優待よりも損失のほうが大きくなる場合があるので注意が必要です。
 

優待クロス取引を上手に活用するために

優待クロス取引は、株価下落を気にせず人気の優待を得られる一方で、貸株料や逆日歩などのコストや配当の扱いに注意が必要です。証券会社の在庫状況によって希望銘柄を確保できないケースもあります。大切なのは、メリットとデメリットを冷静に比較することです。そのうえで、自分にとって得かどうかを見極め、計画的に活用する姿勢が必要です。
 
執筆者 : 諸岡拓也
2級ファイナンシャル・プランニング技能士

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