2021年4月に始まる「同一労働同一賃金」には例外はない!前編
配信日: 2021.03.25 更新日: 2024.10.10
パートタイム・有期雇用労働法の改正が、これまで除外されていた、中小企業にも2021年4月1日から適用されます。最近よく聞かれる「同一労働同一賃金」が中小企業に適用になるにあたって注意すべきポイントを、2回にわたってお話しします。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
改正のポイント、ここが大事
会社は、正社員以外にも、短時間正社員、パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者など、呼び方は会社によって違っても、さまざまな条件で働いている労働者で構成されています。
今回適用される法改正では、同一の企業内における、正社員(無期雇用フルタイム労働者)とパートタイム労働者等の間の不合理な待遇差をなくす、ということが最大の目的です。
ただ、一概に同一企業内の労働者の給料が同じにそろえられるという改正ではありませんので、その点は雇用している方への説明に注意しておきたい点です。
厚生労働省のホームページでは特集コーナーを作成し、それぞれどんな場合における待遇差が不合理なのかをガイドラインで示しています。今回の改正点のうち中小企業にとっての高いハードルは、待遇差があるのであれば、説明義務が発生することです。
ですから、冒頭のような、単に「パートだから、時給は低くて当たり前」などの説明では、法律違反となりうる可能性が出てくるのです。給料形態を、総額を調整するために、「皆勤手当」「職能手当」「調整手当」など、定義があいまいなままの中小企業も多いように感じています。
大企業と異なり、中小企業は途中入社が多いということもあるでしょうが、労働者によって、ついつい個別の扱いをしてしまっている場合には、ぜひ給料形態を見直していただきたいものです。
就業規則は会社のルール
会社の就業規則を確認するときは、労働者から病気休職を請求されたときなど、何か調べたいときでしょうが、この同一労働同一賃金の改正時期に合わせて、ぜひ就業規則の総点検をしてみてください。
なぜなら、今回の改正は、単に給料体制を見直せばいいだけの話ではないからです。同一労働同一賃金ガイドラインで示された、短時間・有期雇用労働者および派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針のうち、一部をご紹介しましょう。
■食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、有給保障については同一の利用・付与を行わなければならない。
■病気休職については、無期雇用の短時間労働者には正社員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行わなければならない。
■法定外の有給休暇その他の休暇であって、勤続期間に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければならない。特に有期労働契約を更新している場合には、当初の契約期間から通算して勤続期間を評価することを要する。
(出所:厚生労働省ガイドラインより一部抜粋)
中小企業では、わざわざ、正社員とパートで別規程の就業規則を作成していることはないかもしれませんが、福利厚生や教育訓練まですべての労働者を同一にするのは、中小企業では難しいはずです。
同一でないなら「なぜなのか」「どのような労働者なのか」をしっかりと規定していないと、争いに発展することもあるでしょう。普段見ることの少ない就業規則は意外と重要なのです。
納得いかないときには、争うことも予想する
今回の改正が中小企業にとってとても対応しにくい点は、これまであいまいにしてきたことを「明確に」することが求められるからです。
ガイドラインの指針の中でも示されていますが、もし労働者間で賃金の決定基準やルールに相違がある場合、「正社員とパート等とでは、将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準やルールが異なる」という主観的・抽象的な説明ではいけないとなっています。
具体的に「職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない」となっていますので、単に、正社員とパート等では「責任の重さが違う」という言い訳では、説明義務を果たしていないと判断されることもあり得ます。
その他の改正ポイントとして、行政による履行確保措置、および裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備もされることになっています。行政ADRでは、均等待遇や待遇差のないよう、理由に関する説明についても行政ADRの対象に追加されます。
今は、ネットでたくさんの情報が取得できます。納得いかないことをネットでつぶやく、メールやラインで相談できる、など手軽に労働者がアクションを起こせるのです。
企業側としては、「これまでこうしてきたから」という慣習はもはや通用せず、争いになった場合にも、しっかりと説明できる根拠を準備することが欠かせないでしょう。
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。