更新日: 2024.10.10 家計の見直し
給与が増えないといわれる時代って?
今回は、総務省が公表している「家計調査年報」を確認しながら、給与が増えないという意味を確認してみます。
執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている
家計調査年報
今回の記事は、総務省が統計を行っている「家計調査年報」の家計収支編のデータを基にしています。家計調査は1946年7月から毎月調査されているもので、「家計収支編」「貯蓄・負債編」「家計消費指数」に分かれています。
対象も単身や2人以上の世帯、勤労世帯、高齢者がいる世帯など、細かく調査されていますが、今回は、1963年から2017年までの2人以上の世帯のうち、農林漁家世帯を除いた勤労世帯のデータをチェックしました。
高度成長期から成熟期へ
1970年代、日本は高度成長期ということもあり、物価も上昇していましたが収入も増えてきた時代でした。しかし、1991年にバブル経済が崩壊し、それ以降は失われた20年といわれ、2011年までは経済の大きな成長もなく物価の上昇もほぼありませんでした。
2012年にアベノミクスといわれる経済政策を打ち出し、2012年以降、総収入がわずかに上昇してきていました。今回のデータにはありませんが、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大により、再び収入減少も起こっています。
※総務省 「家計調査年報・家計収支編 2. 農林業家世帯を除く結果([年]収入及び支出金額)」を基に筆者作成
このグラフを見ると、1991年までは収入は右肩上がりになっています。支出も増えていますが、1970年の収入・支出と比べて収入が大きく増えており、1991年には収入と支出の差が大きくなっています。これは、物価が上昇する以上に収入も増えていったということが分かると思います。
1970年から1990年までの高度成長期やバブル景気があった時代には、住宅ローンなどの借り入れは「無理をしてでも借りろ」といわれていたようで、借入金などは借り入れをした時点で返済額などが決定するため、経済成長により収入が増えることで、返済額の負担が少なくなると考えられていたようです。
しかし1991年以降、収入は減り、支出と収入が平行線をたどっていることが分かります。こうなると住宅ローンなどの返済の負担は変わらないことになり、収入が減ったときには、返済が大きな負担になってしまいます。
日銀は2%物価上昇を目標に
アベノミクスでさまざまな政策が出されていたときに、日銀は2013年1月に2%の物価上昇の目標を打ち出しました。いまだ目標達成には至らず、今回の新型コロナウイルスの影響で再び目標達成が遠のいたように思います。
ただ、先進国では高い物価上昇はありませんが、1%~2%の物価上昇は妥当だと考えられています。現在は新型コロナウイルスの影響で行動自粛などを余儀なくされているために、消費支出が減少しています。
消費をすることが少なくなり、世の中は金余り状態となっていますが、新型コロナウイルスが収束し、行動制限も解除されれば、これまで制限されていた反動で消費活動が活発になる可能性はあるかもしれません。そうなると今後、物価も上がる可能性が高くなるのではないでしょうか。
額面では増えているのに
多くの人は、年金が少なくなると思われているように感じています。しかし年金は今後、経済が成長すれば金額自体は増えると思います。
日本ではマクロ経済スライドという、年金の金額の調整を物価上昇だけはなく、今後の加入状況や長寿化を加味していく方針がとられています。
ですので、年金額は今後の物価上昇と同じような動きはしないことになっていて、仮に物価が1%上昇しても年金額は1%も上昇しないことになり、実質の年金額の目減りとなってしまうのです。
現役世代の人も物価上昇と同じように昇給しなければ、実質の収入の減少になってしまいます。今後は、給与の総支給額や年金額は増えていくと思われますが、物価上昇に伴い支出も増えて、実質では給与が増えない時代となっていくと考えられます。
まとめ
給与が増えない時代といわれていても、昇給があったり、時給が上がったりしていることで、給与が増えていないと感じない人は多いと思います。しかし、名目と実質というお金の価値の違いを認識して、実質の価値を踏まえたお金の計画を考えていく必要があるのではないでしょうか。
出典
総務省統計局 家計収支編 2. 農林業家世帯を除く結果([年]収入及び支出金額)
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー