コロナ禍で出生数が大きく低下? 公的年金制度に影響はある?
配信日: 2021.06.20 更新日: 2024.10.10
出生数が減ることで、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。年金制度は今後どうなるのか考えてみます。
執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)
CFP®認定者・相続診断士
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/
データでみる出生数の急激な減少
厚生労働省より発表された2021年3月時点での人口動態統計(速報)によると、2021年1月の出生数は6万3742人でした。前年同月の出生数7万4672人と比較すると、マイナス14.6%と急激に減少しています。
【図表1】
出典:厚生労働省「人口動態統計速報(令和3年3月分)」(※1)より筆者作成
【図表2】
出典:厚生労働省「人口動態統計速報(令和3年3月分)」(※1)より筆者作成
また、人口動態統計(確定値)での2010年以降の推移は、以下のとおりです。直近の出生数は現時点で発表されていませんが、2021年は80万人を下回るのではと予測されています。
【図表3】
出典:厚生労働省「人口動態統計(確定数)」人口動態総覧の年次推移(※2)より抜粋、グラフはデータより筆者作成
出生率と新型コロナの感染拡大は影響ある?
出生数の減少と新型コロナの影響に関する関連性をデータから読み取ることは難しいですが、感染が広がり始めた時期を考慮すると、子どもを育てる環境や将来に不安を感じていることは確かのようです。
緊急事態宣言による休業や業態変更に伴い、収入が大きく減少した世帯もみられます。月あたりの家計収支は乗り切れているものの、賞与をあてにしていた住宅ローンや学費に影響が出る世帯からの相談が増えています。現時点での影響はそれほどではないものの、「働き方」や「住まい」について見直すケースも多くあります。
いずれにしても、これまでの当たり前が通用しなくなるため、さまざまな選択肢やリスク対策を考えておく必要がありそうです。
公的年金に与える影響は?
このままのペースで出生数が減少を続けた場合、問題となるのは、将来的に年金保険料を納める「働く世代」の人口減少です。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(全国)」によると、2050年の世代ごとの人口分布は以下のとおりです。国庫負担や積立金のほか年金財源の多くを占めるのが、「生産年齢人口」と呼ばれる働く世代が負担する保険料です。
一方で、受け取る高齢者の数は増え続け、超高齢社会が現実となりそうです。医療技術や新薬の開発による死亡率の低下は、年金財源という観点からすると、年金制度の危機的状況、と不安に感じる方が多いのも納得するところです。
【図表4】
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 人口プラミッド」(※3)
少子高齢化を見越した仕組みの導入
実は、国では、こうした少子高齢化の進行を見据えた年金財政の仕組みを導入しています。
給付と負担の変動に応じて給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」の導入により、現役世代の負担が過大になることを防いでいます。また、給付と負担のバランスが機能しているかを確認するために、少なくとも5年に1度の「財政検証」を行い、長期にわたって持続できる仕組みとなっています。
公的年金の制度については、継続的に審議が開かれており、改正が繰り返されています。現状の制度のまま継続することはないとしても、リタイア後の主な収入である公的年金が崩壊することは現実的ではありません。
さまざまな働き方、さまざまな人生観を想定してみよう
業種などによりますが、「テレワーク」が浸透しつつあり、自分の時間をコントロールする人が増えています。また、副業や起業を検討したり、転職を考えたりする人も多いようです。
ここ数年での働き方の変化の1つとして、専業主婦やパートからの働き方の変化がデータで確認できます。厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年10月現在)によると、会社員に扶養されている配偶者(第3号被保険者)の数は、平成30年10月時点で855万人でしたが、令和2年10月時点では802万人と減少し、顕著な変化です。
これまで扶養の壁を意識していた配偶者が税金や社会保険料を負担しても、厚生年金加入で少しでも年金収入を増やしたいという現れかもしれません。
【図表5】
出典:e-Stat 政府統計の総合窓口 「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年10月現在)」(※4)
一方で、働きやすい環境づくりをめざす企業も少なくありません。保育園を運営する自治体や法人も変わりつつあります。ひと昔前には、保護者が自宅にいるなら育児ができるはず、と登園を自粛するよう促される事例が多くみられましたが、対応が変わってきています。
まとめ
人口動態が推計どおりに推移すると仮定しても、悲観ばかりしてはいられません。新型コロナの感染拡大当初から時間が経過し、ワクチンの接種も進んでいます。いまだ脅威ではありますが、正体のしれない不安の時期からは、少しずつさまざまな場面で対応や対策が変わりつつあります。
これまでの働き方や生活について、見直す機会かもしれません。年金制度の崩壊はないとしても、減額や受給時期の改正にも対応できるよう、少しずつでも自助努力を積み重ねていきたいものです。経済的な不安から諦める選択肢もあるかもしれませんが、後悔しない、自分なりに納得のできる行動を選びたいですね。
出典
(※1)厚生労働省「人口動態統計速報(令和3年3月分)」
(※2)厚生労働省「人口動態統計(確定数)」人口動態総覧の年次推移
(※3)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 人口プラミッド」
(※4)e-Stat 政府統計の総合窓口 「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年10月現在)」
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士