更新日: 2022.09.28 働き方

「残業規制」が敷かれはじめた今、実際に残業は減っている?

執筆者 : 柘植輝

「残業規制」が敷かれはじめた今、実際に残業は減っている?
2019年4月および2020年4月に、大企業と中小企業で本格的な残業規制が導入されましたが、現在、残業の在り方はどうなっているのでしょうか。残業時間の推移を基に見ていきます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

残業規制はどのような形で導入された?

直近の大規模な労働基準法の改正として、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から導入された「時間外労働の上限規制」(以下、残業規制)が記憶に新しいところでしょう。
 
それまでは特別条項を設けて労使間で協定を結ぶことにより、雇用者側は罰則もなく、ほぼ青天井で従業員に残業(時間外労働)をさせることができていました。
 
しかし、2019年、2020年に実施された改正で、残業の上限については月45時間、年360時間が原則となり、特別な事情があって労使合意した場合でも年720時間以内と、大幅な規制が敷かれるようになりました。
 
これらに違反すると6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金といった罰則が雇用主に科される可能性があり、非常に強力な残業規制となっています。
 

残業規制の前後で労働時間はどう変わったか

2019年からの残業規制の導入によって、残業は大きく減っているようです。
 

出典:厚生労働省 「労働時間制度の現状等について」
 
厚生労働省の統計によれば、2012年度(平成24年度)の平均残業時間は年間145時間、月に換算するとおよそ12時間です。
 
それが中小企業にも残業規制が及んだ2020年度(令和2年度)には、年平均が127時間、月換算はおよそ10.5時間と、2012年度から月の平均残業は2時間近く減っています。
 
特に2019年度(令和元年度)から2020年度の減少の差が大きく、残業規制の効果が表れていることが分かります。2021年度(令和3年度)では再び増加しているものの、それでも10年前よりは少ない範囲にとどまっており、やはり残業規制が一定の効果を発揮している傾向があるといえるのではないでしょうか。
 

残業規制の問題点

残業規制はプラスの面しかないと思うかもしれませんが、規制による働き方改革が見せかけのものになる可能性もあります。
 
例えば、企業がただ残業規制を徹底するばかりで、業務フローの改善や効率化、人員の増強などを行っていないケースでは、残業ができないために仕事を自宅に持ち帰る、定時でタイムカードに打刻してから残業する、早朝に出社して仕事を始めるなど、いわばサービス残業が増加することも考えられます。
 
また、これまで残業代ありきでローンを組んでいた場合や、中小企業にありがちな残業代がなければ給与の支給総額が大きく下がってしまうような場合、家計を維持していくことが難しくなるという問題も起こり得ます。
 
こうした点については、国はもちろん、実際に労働者の残業を管理する企業側が取り組んでいくべき今後の課題だといえます。
 

時間外労働の規制で残業が減っても問題は残る


 
残業に関しては、ただ単に見かけ上の残業時間を減らせばいいというわけではありません。残業の規制と同時に業務の効率化などを進めてサービス残業が行われることを防ぎ、その上で給与形態の見直しを行うなど、労働者側が残業代を当てにしなくても生活できるようにしていく必要があるでしょう。
 
日本の労働環境においては残業だけでなく、賃金や人手不足など、さまざまな面で国と雇用側が連携して改善に取り組んでいく問題がありますが、労働者側も残業規制を通じて、働き方について考えていかなければならない時代かもしれません。
 

出典

厚生労働省 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
厚生労働省 労働時間制度の現状等について
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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