更新日: 2022.09.29 働き方

【あれから10年】「40歳定年制」は忘れ去られた? 全く浸透しなかった理由

執筆者 : 北川真大

【あれから10年】「40歳定年制」は忘れ去られた? 全く浸透しなかった理由
旧民主党・野田佳彦政権時代の2012年7月、国家戦略会議フロンティア分科会がまとめた報告書で「場合によっては、40歳定年制や50歳定年制を採用する企業があらわれてもいいのではないか」と提唱しました。あれから10年。一時的に物議を醸したものの、40歳定年制はほとんど広まることなく現在に至ります。
 
今回は、「40歳定年制」が浸透しなかった理由と、40歳定年制に似た趣旨の制度について解説します。
北川真大

執筆者:北川真大(きたがわ まさひろ)

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40歳定年制が浸透しなかった理由

「40歳定年制」が話題になったものの浸透しなかった主な理由は、2つあります。
 

企業の人材育成方針と合わない

1つ目は、フロンティア分科会のメンバーの大半が学識者であったため、企業の実情を反映した提言にはなっていなかったことです。
 
報告書の中でも「40歳定年制」を提唱した直後に「もちろん、それは、何歳でもその適性に応じて雇用が確保され、健康状態に応じて、70 歳を超えても活躍の場が与えられるというのが前提」としていましたが、10年前の時点では時期尚早であったことは否めません。
 
これまで終身雇用、年功序列を半ば前提とした育成方針を採っていた日本企業は、根本的な方針転換ができませんでした。「終身雇用を守っていくのは難しい局面」とトヨタ自動車の代表取締役社長が発言しても、ほとんどの企業はこれまで通りの人材育成を変えられていません。
 
採用コストが1人当たり90~100万円と高騰している状況を考えれば、企業としても「できる限り長く活躍してほしい」と考えるのは当然です。一般的に、40歳は仕事をバリバリこなせる年齢であり、よほど特別な事情がない限り辞めてほしくないのが本音でしょう。
 

日本の制度が変わっていない

2つ目は、「人生100年時代」や「パラレルキャリア」など、これまでの常識を覆すような考え方は認知されているものの、日本の企業の中では制度が大きく変わっていないことです。
 
競争主義、成果主義といいつつも、実際には社歴の長い社員を管理職に配置している年功序列型の企業が数多く存在します。退職金も3年未満の離職ではもらえないなど、勤続年数が長い人ほど有利になる仕組みです。
 
従業員の権利が過剰に守られている法律もあまり変わっていません。これでは、企業や社員が積極的に変わろうとは思えないでしょう。
 

40歳定年制に似た制度は存在する

一方で、40歳定年制に似た制度は存在します。
 

●役職定年制
●早期退職制度

 
2つの制度は実施している企業はまだ限られるものの、組織の新陳代謝を促す制度として40歳定年制に似た趣旨を持っています。
 
「役職定年制」は、一般的に55歳から設けられている制度です。役職定年になると管理職から外れて一般社員(専門職)に降格するため、多くの場合において年収が下がります。これまでと同じ働き方なのに給料が下がれば、社員のモチベーションも下がるでしょう。
 
それでも、できる限り若手に管理職ポストを与えてキャリアアップの機会を設けるほうが、将来的にメリットがあると考えている企業もあります。
 
「早期退職制度」は、割増退職金や失業保険の受給期間が長くなるといったメリットを社員に与える代わりに、定年前の退職を募る制度です。
 
あくまで早期退職を希望する人に対して実施する制度ですが、事実上の「退職勧奨」も行われています。退職勧奨に対しては拒否する権利はあるものの、その後の人事異動には従うしかありません。
 

企業で長く活躍したいならキャリアアップが必要

40歳定年制については、10年前に提唱されたものです。すでに記憶に残っていない人のほうが多いでしょう。しかし、実際には40歳定年制と似たような趣旨の制度が導入されている企業があります。転職するもしないも個人の自由です。ただし、転職しないとしても、長く活躍したいならキャリアアップを常に考え努力する姿勢が求められるでしょう。
 

出典

国家戦略会議フロンティア分科会 フロンティア分科会報告書

人事院 民間企業における役職定年制・役職任期制の実態

 
執筆者:北川真大
2級ファイナンシャルプランニング技能士・証券外務員一種

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