更新日: 2023.03.22 働き方

2023年4月に給料のデジタル払いが解禁!? 労働者から頼まれたら対応しないといけない?

執筆者 : 當舎緑

2023年4月に給料のデジタル払いが解禁!? 労働者から頼まれたら対応しないといけない?
勤務先から支払われる給料は「通貨払い」、すなわち現金で支払うことが、労働基準法上の原則の取り扱いです。
 
現在は、封筒に現金を入れて給料を受け取ることはほとんどないことから、銀行口座に振り込まれるのが普通だと思っている方も多いでしょう。ただ、この取り扱いは「労働者が同意した場合」にできる「例外」にあたります。
 
2023年4月、この例外に新たな選択肢が加わります。今回は、労働者から「給料をデジタル払いにしてほしい」と請求された場合の対応方法を知っておきましょう。
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

給料のデジタル払いを求められたら、拒否することはできないの?

令和5年4月1日からデジタル払いが認められるといっても、省令が施行される4月1日から、振り込み処理を行うことができる指定資金移動業者は、厚生労働省の審査の上で決定されますから、すぐにデジタル払いが実行できるわけではありません。
 
給料を支払う側からすると、これまではまとめて金融機関に振り込み処理を依頼するだけが、給与計算の振り込み処理に「デジタル」というひと手間がかかる可能性があります。
 
労働者から、「給料は○○ペイにしてください」と突然言われたときに慌てないよう、デジタル化を進めるために知っておきたいことを厚生労働省のQ&Aからいくつか紹介します。
 
<質問1>
賃金のデジタル払いは、必ず実施しなければならないのでしょうか? 引き続き、銀行口座等で受け取ることができなくなるのでしょうか?
 

<回答1>

賃金のデジタル払いは、賃金の支払い・受取の選択肢の1つです。労働者が希望しない場合は賃金のデジタル払いを選択する必要はなく、これまでどおり銀行口座等で賃金を受け取ることができます。
 
また、使用者は希望しない労働者に強制してはいけません。賃金の一部を資金移動業者口座で受け取り、残りを銀行口座等で受け取ることも可能です。
 
<質問2>
賃金のデジタル払いを選択した場合、ポイントや仮想通貨などで賃金が支払われることがありうるのでしょうか?
 

<回答2>

現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払いは認められません。
 
(出典:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払い(賃金のデジタル払い)について」(※1))
 

デジタル払いを始めようとしたとき、何から始める?

会社に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表するものと、賃金デジタル払いの対象となる範囲や振込先について、その範囲を労使協定で定める必要があります。
 
ただ、これですぐ労働者全員に有効となるわけではありません。
 
口座振り込みができる場合と同様に、個々の労働者から、デジタル払いで受け取る賃金の額や口座番号、代替口座情報などを記載した同意書を提出してもらう必要があります。同意書については、厚生労働省のホームページにすでに様式例が掲載されています(※2)。
 
入社する際に、給料の振込先を書いてもらう様式がすでにある企業もあるでしょうが、メモ程度にしか振込先を書いてもらっていない、もしくはメールなどで連絡してもらっている企業の場合は、1人ずつ「同意書」を取る、というひと手間が必要となります。
 

デジタル払いの制度を始めた後に業者が破綻した? そんなときには…

「指定資金移動業者」は、どのような業者もなれるわけでなく、厚生労働省から指定される業者に限ります。そのため、万一破綻した場合でも、保証機関から弁済されるセーフティーネットがあります。
 
ただ、その具体的な弁済方法は業者ごとに異なりますので、対応も異なることは当然と考えて業者を選択する必要があるでしょう。
 
厚生労働大臣が業者を指定するときの要件として、いくつかの厳しい条件が付されています。例えば


・破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること

・口座残高上限額を100万円以下に設定または100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること

です[出典:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払い(賃金のデジタル払い)について」(※1)]。このように、労働者に保証できる額は最大100万円と想定されていることが分かります。
 
業者としては、そのほか、 賃金の支払いに関する業務の実施状況、および財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有するという、保証や補償の仕組みを備えているという心強い条件もあります。
 
日常から「○○ペイ」などの決済アプリで普段の買い物を決済して、便利さを実感している方は、そのまま給料を決済アプリに入れてもらったほうが楽だと、気軽に振込口座の変更を依頼してくる労働者もいるかもしれません。
 
ただ、保証される金額は「100万円」などということもあり、増やす・貯めるというよりも、日常使いをより便利にするための決済口座であるということを、労働者に説明できる準備をしておくとよいでしょう。
 

出典

(※1)厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
(※2)厚生労働省 資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書(参考例)
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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