更新日: 2023.12.26 働き方

物価高で大変! 退社後にパートを始めたいのですが、副業すると社会保険料は増えますか?

執筆者 : 伊藤秀雄

物価高で大変! 退社後にパートを始めたいのですが、副業すると社会保険料は増えますか?
大きな話題になっている、社会保険に関する年収の壁。副業で収入が増えた時は合算で判断されるのでしょうか? また手続きはどうなるのでしょうか? FPが解説します。
伊藤秀雄

執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)

FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員

大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。

社会保険料の有無は働き方で異なる

社会保険といっても、働き方によって適用される種類や数が異なります。ここでは、会社員や、社会保険加入の適用要件を満たすパート・アルバイト(※1)が加入する「健康保険」と「厚生年金保険」を中心に説明します。
 
本業と副業を、それぞれ会社員と自営業・個人事業主の場合で組み合わせると、次のようになります。
 
図表1
 

 
ケース1では、副業先でも社会保険加入となるため二重加入となり、社会保険料も増えます。もし、副業先で社会保険加入の適用要件を満たさなければ、社会保険料に影響はありません。
 
ケース2のように、会社員が執筆やフードデリバリーの仕事、フリーマーケットの出品等の副業で事業所得や雑所得などの収入を得ても、新たに社会保険料は発生せず、本業の社会保険料のみとなります。
 
ケース3は、本業の所得が社会保険料の算定からはずれます。ケース2の本業と副業が入れ替わった形です。保険料の事業主負担分が生じることで負担が軽減することもあります。仮に副業先が社会保険の適用要件に満たない場合、副業先に社会保険加入は移らず、ケース4と同様に合算した所得に応じ自営業としての国民健康保険料が増えます。
 

本業と副業それぞれで判断する

では、ケース1で本業・副業ともに社会保険加入の要件を満たさない「本業×/副業×」の場合でも、合算して要件を満たす(壁を超える)場合は加入になるのでしょうか?
 
この場合、適用要件は「事業所ごとに判断する」ため加入対象外です。複数の事業所で勤務する場合に、どちらの事業所でも適用要件を満たさない場合は、たとえ合算して適用要件を満たしたとしても適用せず、よって保険料も発生しません(※2)。
 
「1週間の所定勤務時間が20時間以上」の要件を例にすると、次のとおりです。
 
図表2


 
「年収の壁」は、本業・副業それぞれで判断するということですね。なお、この考え方は介護保険についても同じです。
 
もちろん、収入は合算され所得税・住民税等は増加しますし、時間外勤務時間も勤務先ごとの労働時間を通算して管理します。2ヶ所以上の事業所間での通算の有無は、税、社会保険、労働時間でそれぞれ認識しておくことが必要です。
 

副業しても保険料に影響しないもの

社会保険には、他に雇用保険と労災保険があります。この2つは「労働保険」ともいわれます。この2つの保険は、副業先が適用要件を満たしても、次の理由により保険料が増えることはありません。念のため押さえておきましょう(※2)。
 

1.雇用保険

1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ継続して31日以上雇用されると見込まれる場合に被保険者となります。ただ、「主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となる」とされているため二重加入は発生せず、基本的には本業でのみ加入継続となります。保険料は労使折半です。
 

2.労災保険

上記の適用要件にかかわらず、雇用していれば加入となるため、本業・副業先両方で加入となります。
 
ただし、保険料は事業主が全額負担するため、本人負担は発生しません。もし副業先で労災に該当した場合は、本業と副業先両方の賃金額を合算して労災保険給付を算定するため、本業の勤務先にも協力してもらう必要があるのは重要なポイントです。
 

誰が手続きするのか?

副業先で健康保険と厚生年金保険の適用要件を満たした場合、副業先事業主が行う手続きの他に、加入者本人にも手続きが発生します。
 
本業と副業先のどちらかを主たる事業所として選択し、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構へ提出することにより、管轄する年金事務所または保険者等を決定します(※3)。
 
選択した年金事務所等は、両方の事業所で受ける報酬月額を合算した月額で標準報酬月額と保険料を決定します。その後、それぞれの事業所の報酬月額に応じて按分した保険料を、選択した事業所を管轄する日本年金機構の事務センターから、それぞれの事業所へ通知します。
 
負担する社会保険料は、それぞれの勤務先の報酬額に応じて給与から控除されることになります。
 
副業を検討中の方は、ご自身のケースではどのようになるのか、確認しておきましょう。
 

出典

(※1)日本年金機構 適用事業所と被保険者

(※2)厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説 2022年10月

(※3)日本年金機構 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き

 
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員

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