更新日: 2024.02.08 働き方

扶養内で働くつもりがうっかり年収の壁を超えてしまいました……。いつから扶養を外れるのでしょうか?

執筆者 : 辻章嗣

扶養内で働くつもりがうっかり年収の壁を超えてしまいました……。いつから扶養を外れるのでしょうか?
会社員の配偶者に扶養されているパートタイマーは、扶養を外れないように「130万円の壁」を意識して勤務時間を調整することがあります。しかし、繁忙期などに働き過ぎて、ついうっかり年収130万円を超えることがあります。
 
今回は、「130万円の壁」をうっかり超えてしまった場合について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

被扶養配偶者とは

厚生年金や健康保険組合の被保険者が扶養する配偶者を「被扶養配偶者」といいます。被扶養配偶者となるためには、一定の認定要件を満たす必要があります。また、被扶養配偶者には「年金や健康保険の保険料を支払うことなく給付を受けることができる」などのメリットがあります。
 

1.被扶養配偶者の認定要件

被扶養配偶者となるためには、日本国内に住所を有していること、被保険者により主として生計を維持されており、被扶養者の年間収入(注)が130万円未満かつ図表1の収入要件を満たすことが認定要件となります(※1)。
 
図表1

世帯の状況 被扶養者の収入基準
被保険者と同居 収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
被保険者と別居 収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

(※1を基に筆者作成)

注:年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額です。また、同居していて収入が扶養者(被保険者)の収入の半分以上の場合であっても、扶養者(被保険者)の年間収入を上回らないときで、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、「扶養者(被保険者)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしている」と認めるときは、被扶養者となることがあります。
 

2.被扶養配偶者のメリット

被扶養配偶者と認定されると、以下のようなメリットがあります。
 
(1)国民年金の第3号被保険者となる
国民年金の第3号被保険者となると、保険料を自分で納付する必要はなくなり、その期間は「保険料納付済期間」として将来の年金額に反映されます(※2)。
 
(2)健康保険の被扶養者となる
健康保険の被扶養者となり、健康保険料を自分で納付することなく、病気・けが・死亡・出産について保険給付を受けることができます(※3)。なお、国民健康保険には、扶養制度はありません。
 

「130万円の壁」と「年収の壁・支援強化パッケージ」

1.「130万円の壁」とは

年収が130万円を超えると、扶養を外れ自ら社会保険に加入しなければならず、収入が増えても社会保険料を支払うことで手取り収入が下がることを「130万円の壁」と言います。そこで、パートタイマーで働く被扶養配偶者は、「130万円の壁」を超えないように勤務時間などを調整しています。
 
なお、従業員が101人以上(令和6年10月以降は51人以上)の企業に勤務するパートタイマーは、年収が106万円(月収8.8万円)以上になると社会保険に加入することになりますので、「130万円の壁」以前に「106万円の壁」があります(※4)。
 

2.年収の壁・支援強化パッケージ

しかし、繁忙期にパートタイマーが勤務時間を調整すると、労働力が不足することになります。
 
そこで政府は、パートタイマーとして働く者が「年収の壁」を意識せずに働ける環境を作るために「年収の壁・支援強化パッケージ」を発動して、「収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き被扶養者認定を受けることが可能となる仕組み」を作りました(※5)。
 
多くの健康保険組合では、年1回、被扶養者資格の確認を行っています(※6)。「年収の壁・支援強化パッケージ」では、扶養確認から次回の扶養確認までの間に一時的に収入が増加した場合、事業主がその旨を証明することにより、次回の扶養認定時にも引き続き扶養認定されることになります。
 
図表2

図表2

 

いつから扶養を外れる?

支援強化パッケージは、連続する2回の扶養認定期間に適用することができます(※5)。従って、支援強化パッケージの対象となる直前の扶養認定日から2回目の扶養認定日まで、資格を喪失することはありません。その後は、年収が130万円を超えることが見込まれることになった時点で、被扶養者の資格を失います。
 
なお「130万円の壁」については、令和6年(2024年)に予定される5年に一度の年金の財政検証を受けて行われる「年金制度改正」において、抜本的な見直しが行われる予定です(※5)。
 

まとめ

パートタイマーとして働く被扶養配偶者は、年収を130万円以内に抑えるように勤務時間を調整します。そのため、繁忙期などで人手が欲しい時期には労働力が不足することになります。
 
そこで、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入し、一時的に収入が増えた場合は事業主が証明することにより、次回の扶養認定日においても引き続き扶養認定を受けることができるようにしました。
 
従って、収入が一時的に増えたことにより、年収が130万円を超えても、直ちに扶養資格を失うことはありません。
 

出典

(※1)日本年金機構 従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き
(※2)日本年金機構 国民年金の第3号被保険者制度のご説明
(※3)全国健康保険協会 被扶養者とは?
(※4)日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
(※5)厚生労働省 年収の壁・支援強化パッケージ
(※6)全国健康保険協会 事業主・加入者のみなさまへ「令和5年度被扶養者資格再確認について」
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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