更新日: 2024.10.10 働き方
上司の「イヤミ」がひどく、ちょっとしたミスで1時間は説教してきます。部長は「怒鳴っているわけでもないしパワハラにはならない」と言うのですが本当ですか? 毎日本当に憂鬱です…
このような言動は、そもそも業務上必要なことでしょうか。厚生労働省のパワハラ指針の定義にのっとって、もう一度考え直してみましょう。明るい職場を作るためのヒントになれば幸いです。
執筆者:玉上信明(たまがみ のぶあき)
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
目次
パワハラの本来の定義を確認しよう
職場のパワハラについて、厚生労働省は次のように定義しています。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動で」
「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」
「労働者の就業環境が害されるもの」
以上の3つの要素を全て満たすものです。この定義に従って、代表的な6つの類型が示されていますが、これにとどまるものではありません。3つの定義についてさらに細かく見てみましょう。
職場の優越的な関係を背景とした言動
職場の上司と部下の関係が典型的なものです。「行為者」(上司)に対し「言動を受ける側」(部下)は抵抗や拒絶が難しい、ということを背景に行われる言動です。
業務上必要かつ相当な範囲を超えた
社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がない、またはその様子が相当でない言動をいいます。
就業環境が害される
その言動により、従業員が身体的・精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快になり能力の発揮に重大な悪影響が生じるといった支障が生じることです。
嫌み・皮肉まじりの長時間の叱責はパワハラそのもの
以上の3つの要素から、今回の事例について考えてみましょう。
「職場の優越的な関係を背景とした言動」
部下のミスに対する上司の注意です。部下としては断れません。要件に当てはまります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」
ちょっとしたミスへの注意なら5分、10分で済むでしょう。1時間も説教する必要はないはずです。それも嫌みや皮肉まじりに行われたなら、その様子は相当でないでしょう。すなわち「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」と考えられます。
「就業環境が害される」
ちょっとしたミスで長時間説教されたら、部下は精神的に参ってしまいます。繰り返されるなら精神的な不調にも陥りかねません。明らかに就業環境が害されるのです。
以上から「ちょっとしたミスに対する嫌みや皮肉まじりの1時間の説教」は、まさにパワハラの定義にそっくり当てはまります。
「パワハラ」の語感にまどわされるな
「パワハラ」の語感から、「パワハラ=怒鳴りつける、叱りつける」とイメージしがちです。しかし、厚生労働省の定義の3要素を考えれば、パワハラはもっと広い範囲の言動を含むと理解できるでしょう。
逆に、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しません 。
例えば、建設現場や製造現場で部下が危険な行為をしそうな場合は、緊急に止めるため怒鳴ること、叱ることも必要でしょう。それ以外の職場でも、部下がお客にとんでもない失礼をしそうな場合、やめさせるために叱ることはあるでしょう。業務上必要な行為であれば、パワハラには該当しません。
パワハラは不祥事のきっかけにさえなりかねない
さらに、ちょっとしたミスで上司から嫌みや皮肉まじりに長時間説教されるならば、部下は、報告しないで黙っていよう、と考えるかもしれません。積み重なれば重大な事故につながりかねません。
例えば、ちょっとしたミスで客から文句をいわれても上司に報告しなければ、上司は客との間で問題が起こっているとは気がつかない。それが積み重なって、客の堪忍袋の緒が切れて会社に怒鳴り込んでくる、といったことが起こりえます。
また、部下がちょっとしたミスと思っていても、実は重大な「ヒヤリハット」事例であり、重大事故につながりかねないこともあります。
そもそも長時間の叱責は労働時間の無駄遣い
ミスへの注意なら5分、10分で済むはずです。1時間もかけるのは、貴重な労働時間の無駄遣いです。上司の指導力不足というしかありません。部下への指導とは名ばかりで、部下いじめをしているとさえ考えられます。職場として許すべきではないのです。
パワハラの本来の意味をよく理解して対応しよう
怒鳴るだけがパワハラではありません。むしろ嫌みや皮肉こそ相手の人格を傷つけるハラスメント行為といえます。
そのような上司がいるのなら、当該上司、さらに上級の管理者や職場の仲間と一緒に、どのような言動が職場環境を害するか、どのような注意の仕方が適切なのか、話し合ってみてください。厚生労働省のテキスト、参考資料、動画等もぜひ活用してください。
出典
厚生労働省 あかるい職場応援団
厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!
厚生労働省 労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます!
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー