更新日: 2024.11.29 働き方
年収「106万円の壁」が撤廃!? パートで「月収8万円」の場合、手取りはどうなる? 金額をシミュレーション
しかし、そこから時間が経たないうちに、厚生労働省は「106万円の壁撤廃」の動きを見せているようです。もし壁がなくなった場合、私たちの手取りはどれくらいになるのでしょうか。本記事では、「106万円の壁」撤廃時の手取り金額について解説します。
執筆者:石上ユウキ(いしがみ ゆうき)
FP2級、AFP
「106万円の壁」のおさらいと現状
「106万円の壁」とは、厚生年金や健康保険に加入し、社会保険料を支払うことになる年収の境目を指します。現在、社会保険に加入となるパート・アルバイトは、以下の条件すべてに当てはまる人です。
●従業員51人以上の企業に勤めている
●週20時間以上働いている
●賃金が月額8万8000円
●2ヶ月を超えて雇用される見込みがある
●学生でない
もともとは従業員101人以上の企業が対象でしたが、2024年10月に現在の条件となり、社会保険の適用が拡大されています。
なお、似たようなものとして「130万円の壁」と呼ばれているものがあります。これは、配偶者の社会保険の扶養から外れ、国民年金や国民健康保険に加入することになる年収の境目です。また、混同しやすいものに「103万円の壁」がありますが、これは所得税が発生する境目となる年収のことです。
「106万円の壁」が撤廃されることで何が変わる?
106万円の壁については、厚生労働省が撤廃を検討しているとされています。検討案の内容は、以下のとおりです。
●現行制度から賃金要件や従業員の人数要件などを撤廃し「週20時間以上働く学生でない人」を社会保険の加入対象とする
●2028年から雇用保険加入者の労働時間が「週10時間」となることから、労働時間の要件も引き下げや撤廃を慎重に検討する必要がある
収入要件が撤廃された場合、働く人の多くが社会保険に加入し、保険料を負担します。よって、パートやアルバイトなどの人でも手取り収入が減少してしまいます。
また、厚生労働省は将来的には労働時間の要件も撤廃を検討しているようです。もし撤廃されれば、厚生年金は「すべての労働者のための年金」に、健康保険は「すべて労働者のための公的医療保険」となります。老後生活での社会保障は充実しますが、収入の少ない人にとって社会保険料の負担は重く感じるでしょう。
「月収8万円」の人が社会保険に加入した場合の手取り
もし、月収8万円の人が社会保険に加入した場合の手取り金額を、東京都を例に確かめてみましょう。
健康保険や厚生年金の保険料は、給与などを区分分けした等級をもとに決められています。月額8万円の人は3等級に該当し、以下の保険料を納めます。
●健康保険料:3892円(40歳~64歳は4516円)
●厚生年金保険料:8052円
よって、上記の保険料を引いた毎月の手取り収入は6万8056円となります。保険料はどちらも事業主と折半しての金額ですが、合計で1万円を超えており、給与額の約15%に相当します。負担額は決して小さいとは言えないでしょう。
まとめ
103万円の壁の引き上げ検討による「手取りアップ」の期待が膨らむなかで、106万円の壁撤廃報道はネガティブに受け取った人もいるでしょう。
厚生労働省によれば、令和5年度の厚生年金収支では歳入・歳出ともに減少となっていますが、保険料収入は増加しています。一方、11月25日の年金部会では厚生年金保険料の算定基準となる標準報酬月額の上限引き上げについて議論されており、さらなる財源の確保を見込んでいるようです。
保障制度の充実は重要ですが、その分国民の負担は増えています。年金積立金を運用結果次第で早期に取り崩すなど、柔軟な対応が求められます。
出典
厚生労働省 社会保険適用拡大ガイドブック
厚生労働省 被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について
全国健康保険協会 令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
厚生労働省 標準報酬月額の上限について
執筆者:石上ユウキ
FP2級、AFP