【注意】「失業保険を28ヶ月受け取れる」という広告を見てビックリ! 支給は「最長11ヶ月」のはずなのに、もしかして詐欺でしょうか? 激務で体調を崩したので、利用できればと思っています…

配信日: 2025.06.23
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【注意】「失業保険を28ヶ月受け取れる」という広告を見てビックリ! 支給は「最長11ヶ月」のはずなのに、もしかして詐欺でしょうか? 激務で体調を崩したので、利用できればと思っています…
前職退職日から再就職までの期間があくと、心配になるのが収入減。退職後の就職活動中や新しい会社から給料が支払われるまでの期間の生活費は、失業保険や貯蓄などでしのぐのが一般的です。そんなとき「失業保険を28ヶ月受け取れる!」という支援業者の広告を見ると安心してしまうかもしれません。
 
しかしこれは雇用保険の基本手当(失業手当)と健康保険の傷病手当金を組み合わせで、それぞれの制度の要件は異なるため、多くのケースで28ヶ月相当の支給にはならないようです。なかには詐欺まがいの情報サイトで告知し、相談者を募っていることも。制度の仕組みを解説し、詐欺にあわないための注意点をまとめます。
玉上信明

社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

雇用保険の基本手当(失業保険)は最長11ヶ月

まず、失業したときの「雇用保険の基本手当」(失業手当)は最長330日分(11ヶ月分)です。28ヶ月などありえません。基本手当がもらえる「所定給付日数」は、雇用保険の被保険者期間、年齢、離職理由により決まります(図表1)。
 
45歳で勤続20年以上かつ疾病などでの離職なら330日です。45歳でも勤続20年未満、勤続20年以上でも45歳未満なら最長270日です。
 
(注)基本手当の1日分は離職前6ヶ月の給与(ボーナス除く)の1日分の5割から8割で、賃金の低い人ほど高い給付率になっています。
 
図表1 基本手当の給付日数 【所定給付日数】

図表1

ハローワーク 離職されたみなさまへ
 
ただし、基本手当は失業した人の生活を守り、1日も早く就職するための手当です。病気やけがで就職できないなら、基本手当は受給できません。しかも、基本手当の受給期間は、原則として離職後1年間です。
 
病気やけがですぐ就職できないなら、受給期間の「延長申請」を行い、就職できるようになってから受給手続きをします。ただし受給期間(1年間)に加えられる延長日数は最大3年間です。
 

健康保険の傷病手当金は最長1年半(18ヶ月)だが要件に注意

「失業保険を28ヶ月受け取れる」という広告は、退職を考える人を有料で支援する企業のサイトなどに掲載されています。しかしこの表現は注意が必要です。この「雇用保険の基本手当」に加えて「健康保険の傷病手当金」の最長受給期間1年半(18ヶ月)を組み合わせて説明しているからです。
 
健康保険の傷病手当金は業務外の病気やけがで仕事ができなくなった場合に支給されます。1日あたり金額は支給開始前12ヶ月分の賃金の日額の3分の2程度です。退職後も病気やけがで仕事ができないなら受給継続できますが、受給開始から1年半たてば打ち切られます。
 
なお、業務上の病気やけがの場合は、労災保険により健保を上回る手厚い給付が受けられます。そのような場合はむしろ労災を検討すべきです。
 

「雇用保険の基本手当」と「健康保険の傷病手当金」を続けてもらうにはいくつもの注意が必要

「失業保険を28ヶ月受け取れる」というのは、これら2つの制度をリレーする前提です。制度の要件に都合よく全部該当すれば、18ヶ月の傷病手当金、その後に最大11ヶ月の雇用保険基本手当の受給で29ヶ月にもなるでしょう。
 
これらは自分で手続き可能で、支援業者に報酬を払って対応するまでもありません。
 
まず、在職中に病気やけがで働けなくなったなら、健康保険の保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に相談して傷病手当金を受給します。退職後も受給するには退職日も出社しないことが重要で、間違えてしまうと給付が打ち切られてしまいます。大事なことなので健康保険の保険者のホームページでも説明されています。
 
そして退職時に、ハローワークで病気やけがですぐ就労できないことを告げて「受給期間の延長申請」をします。病気やけがから回復し、働けるようになれば、医師に就労できる旨の診断書をもらってハローワークに行き、雇用保険基本手当の申請をします。
 

業務に起因した傷病であれば労災保険を検討すべき

なお「激務による健康状態の悪化」なら、労災保険の請求を検討すべきです。労働基準監督署に相談してください。健康保険と違って治療費は全額保険で負担され、自己負担はありません。
 
休業補償給付も給付基礎日額の80%の額を期間の定めなく受け取れます。なお、給付基礎日額は、直前3ヶ月のボーナスを除いた賃金の1日分と考えて差し支えありません。
 
労災なら解雇も制限され雇用が守られます。治療に専念するために退職しても給付は続きます。障害が残ったり不幸にして亡くなったりしたときも、手厚い給付が行われます。
 
むしろ、業務上災害で健康保険の給付を受けることは間違いです。労災保険は業務上の、健康保険は業務外の傷病に備える制度です。それぞれ役割が違います。労災でありながら、健康保険の傷病手当金を受給するのは、健康保険の不正受給です。
 
なお、労災の認定が得られるかどうか分からないので、いったん健康保険の傷病手当金を受給し、労災認定がされれば健保の給付を返還する、といった扱いは実務上でもあり得ます。そのための手続きも厚生労働省サイトで案内されています。
 

宣伝文句にだまされないように

「失業保険を28ヶ月」とPRする業者は、雇用保険の基本手当と健康保険の傷病手当金の受給を特別なノウハウであるように宣伝しているのです。健康保険の保険者やハローワークに相談すれば、誰でもできます。
 
業者のなかには、病気やけがから回復したら傷病手当金が打ち切られるので、「受給期限まで医師の回復証明をもらうのを待ちましょう」など不正受給と捉えられかねない、紛らわしい記載さえ見受けられます。高額の報酬を払ったうえで、思いがけず不正受給に手を染める懸念すらあるのです。
 
健康保険の保険者、ハローワーク、労働基準監督署などの公的機関に相談して、適切な給付を受けられるように対応しましょう。1人で不安があれば、社会保険労務士などの専門家への相談も1つの方法です。
 

出典

厚生労働省 ハローワーク 離職されたみなさまへ
厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
全国健康保険協会 傷病手当金について
 
執筆者 : 玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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