「レシートはないが返金しろ!」相次ぐ“カスハラ”で従業員が疲弊…東京都で防止対策に「40万円」支給するそうですが、どうすれば受け取れますか?「応募方法・注意点」をわかりやすく解説
マニュアルを作成し、実践的なカスハラ防止対策を行えば40万円の奨励金が支給されます。対象は300人以下の企業とされています。第1回募集は8月8日までですが、年度内にさらに2回募集される予定です。
本記事では応募の仕方、間違いやすいポイント、注意点などを分かりやすく説明します。
また、これに便乗した詐欺への注意点も説明します。
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
目次
広範な事業者が簡単な準備で申請できる
この奨励金は、広範な事業者が対象です。カスハラ対策として何をすればよいかということも明確に示されています。
概要は以下の通りです。
(1)常時雇用する従業員300人以下の企業で、都内で1年以上事業をしていること(個人事業者も対象です)
(2)カスハラ対策マニュアル(以下「マニュアル」)を整備・周知し、カスハラ基本方針を社内外に周知していること
(3)録音・録画環境の整備、AI活用システムの導入、外部人材の活用のうち、いずれか1つのカスハラの実践的取り組みをしていること
次に詳細を説明します。
対象事業者は広範(「中小企業」にとどまらない)
対象は、都内で事業を行っている従業員300人以下の事業者です。
都内に本社がなくても、都内で1年以上事業をしており、従業員300人以下なら対象です。千葉本社が249人、東京支社が50人でも対象です。
中小企業基本法の中小企業の定義と異なり、業種の違い(例:小売業は従業員50人以下、卸売業は100人以下など)もありません。
マニュアルの整備・周知、カスハラ基本方針の社内外周知
2025年4月1日(東京都カスハラ条例施行日)以降に、マニュアルを作成・改定し周知していること。マニュアルの雛形が用意されており、これを参考に自社に応じた内容で整備し、社内周知を図れます。
なお、すでにマニュアルがあるだけでは不可であり、その場合は4月1日以降に改定することが必須です。募集要項の「必須項目」も盛り込んで「雛形」に基づいてチェックしてください。
マニュアルの中に「カスタマーハラスメントに対する基本方針」が定められているので、これを社内外に周知します。社外周知は、店頭掲示、自社ホームページ掲示、顧客先への周知等です。
カスハラの実践的取組は3通り
以下「取組1から3」のいずれかを行います。奨励金は、このような取組に要する費用を負担してもらえる、と考えると分かりやすいでしょう。
2025年4月1日以降に新たに取り組んでいることが必要です。
(1)取組1. 録音・録画環境の整備
カスハラ対策用の録音・録画機器を購入・リースし、都内事業所に録音・録画環境を整備。運用ルール策定と社外周知で、カスハラ対策を進めることが必要です。
(2)取組2. AIを活用したシステム等の導入
カスハラ対策に資するAI活用システム等の新たな購入またはサービス契約を締結し、都内事業所に導入。運用ルール策定と社外周知で、カスハラ対策を進めることが必要です。
AIシステムは「AIが活用されカスハラ対策に利用できる」旨の記載が、当該システムのパンフレットやホームページ等で確認できることも必要です。
(3)取組3. 外部人材の活用
カスハラ課題改善のために、都内事務所対象の外部人材を新たに活用すること。運用ルールを策定し、カスハラ対策を進めることが必要です。
対象となる主な外部人材の活用は次の通りです。
・相談対応等の継続的契約:相談体制構築などの6ヶ月以上の契約です。
・社内研修等のスポット契約:カスハラ社内研修の実施等のためのスポット契約であり、外部会社主催セミナーへの参加は対象外です。主な外部人材は、弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士、労働衛生コンサルタント、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントなどです。
・警備会社との法人契約:カスハラ対策の警備体制強化のための6ヶ月以上の継続的な契約です。
例えば、飲食店なら「取組1. 録音・録画環境の整備」として、防犯カメラやICレコーダーなどの録音・録画機材を活用する、といった対応が現実的と思われます。
図表1
公益財団法人東京しごと財団 令和7年度 カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金
注意すべきポイント
・申請は、国(デジタル庁)が提供する電子申請システム「JGrantsの電子申請」のみで、紙申請は不可です。JGrants掲載の申請様式を見れば、実際に何をすればよいか、すぐ分かるようになっています。
・第1回申請受付は1000件が上限です。先着順に1000件に達すれば締め切られます。年度内にさらに2回募集があるので、間に合わないときは次回にチャレンジしましょう。
・申請は1事業者につき1回限りです。別法人格でも同一代表者の申請は、同一企業からの申請とみなされます。
便乗業者に注意
「東京都から委託を受け、事前に○万円を支払えば都の40万円の奨励金が受けられる」といった営業を行う業者がいるようです。公式窓口以外からの連絡や不審な業者には絶対に応じないでください。
奨励金をきっかけにカスハラ対策に真剣に取り組もう
奨励金制度は、企業がカスハラ対策に取り組むきっかけです。従業員としても、経営者・管理者と共に、マニュアルや研修なども活用し、実効性あるカスハラ対策に主体的に取り組みましょう。あなたの職場を働きやすくする貴重な一歩となるでしょう。
出典
東京都 公益財団法人東京しごと財団 令和7年度 カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金
東京都 公益財団法人東京しごと財団 カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金 募集要項
JGrants 令和7年度カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金(第1回申請受付)
東京都TOKYOはたらくネット カスタマーハラスメント防止対策
執筆者 : 玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

