106万円の壁が撤廃されると「手取りが減る」と聞いて不安です。一体、どれくらい手取りが減るんでしょうか?
「106万円の壁が撤廃される」と聞いて、不安になる方もいらっしゃると思われます。
本記事では、「『106万円の壁が撤廃される』とはどういうことか?」「どれくらい手取りが減るのか?」について解説します。
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
「106万円の壁が撤廃される」とはどういうことか?
現行制度において、社会保険の加入対象者(短時間労働者=パート・アルバイトなど)は、以下の要件に該当する方です。
・週の勤務が20時間以上(雇用契約で判断)
・給与が月額8万8000円(年収106万円相当)以上
・2ヶ月を超えて働く予定がある
・学生ではない
・従業員51人以上の企業などで働いている
今回の改正では、以下の3点がポイントになります。
(1)短時間労働者の企業規模要件を縮小・撤廃
(2)短時間労働者の賃金要件を撤廃
(3)個人事業所の適用対象を拡大
このうち、(2)が「106万円の壁」の撤廃を意味しています。この背景には、最低賃金の上昇があります。全国の最低賃金が1016円以上になった場合、週20時間働くと現在の賃金要件である月額8万8000円(年収106万円相当)を満たすことになります(※)。
つまり、最低賃金の上昇により、現行の賃金要件は意味をなさなくなり、このために「106万円の壁が撤廃される」といわれているのです。
(※)月額8万8000円 × 12ヶ月 = 105万6000円 < 1016円 × 週20時間 × 52週 = 105万6640円
どれくらい手取りが減るのか?
以上のことから分かることは、「106万円の壁」が撤廃されたからといって、年収100万円の方や年収90万円の方が、社会保険に加入することになるわけではないということです。例えば、時給1016円の方が年収100万円を得るとき、週の勤務時間は以下のように計算できます。
週の所定労働時間 = 100万円 ÷ 52週 ÷ 1016円
≒ 18.9時間
この計算では、週の所定労働時間は「18.9時間」となり、社会保険の加入要件である「週の勤務が20時間以上」は満たさないことになります。つまり、「年収106万円の壁」が撤廃されたといっても、年収を抑える(勤務時間を減らす)ことで社会保険に加入しないでいることも可能ということです。この場合は、当然、手取り収入が減ることもありません。
仮に社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入することになった場合、厚生年金保険料は少なくとも8052円(労使折半の場合の自己負担額)はかかります(保険料率18.3%を折半)。
健康保険料は、勤務先の所在にもよりますが、東京都の場合、少なくとも2873円(労使折半の場合の自己負担額)、40歳以上の方は介護保険料を含め3335円かかります(保険料率9.91%を折半、介護保険加入の場合は11.5%を折半)。つまり、少なくとも1万円強、手取り収入が減るといえます。
とはいえ、社会保険に加入することには、以下のメリットもあります。
・厚生年金に加入することで、「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の保障が充実する
・健康保険の被保険者になることで、「傷病手当金」「出産手当金」を受け取れるようになる
社会保険に加入することは、単に手取り収入が減るということではなく、保険に加入するということですので、どちらが望ましいかをこの機会に考えてみるのもよいかもしれません。
まとめ
本記事では、「『106万円の壁が撤廃される』とはどういうことか?」「どれくらい手取りが減るのか?」について解説しました。まとめると、以下のようになります。
・「106万円の壁が撤廃される」とは、社会保険の加入要件である「賃金要件」が撤廃されるということ
・社会保険に加入した場合、少なくとも1万円強は手取り収入が減る(東京都の場合)
「106万円の壁」が撤廃されたといっても、必ずしも社会保険に加入しなければいけないというわけではありません。賃金要件以外の加入要件は残されているため、働き方をコントロールする(加入要件を満たさないように働く)ことで、手取り収入が減らないようにすることも可能です。
社会保険の加入については、人それぞれの考え方がありますので、こちらでどうこう述べるつもりはありません。ただ、この機会に社会保険の加入について考えてみるのもよいのではないでしょうか。
出典
厚生労働省 年金制度改正法が成立しました
厚生労働省 第195回社会保障審議会医療保険部会 資料1 被用者保険の適用拡大について
全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)
執筆者 : 中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
