なかなか下がらない「米価格」… 高騰が続く背景は、特殊な価格決定の仕組みにある?

配信日: 2025.09.07 更新日: 2025.09.08
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なかなか下がらない「米価格」… 高騰が続く背景は、特殊な価格決定の仕組みにある?
米は日本の食卓に欠かせない主食ですが、ここ数年、スーパーで売られている米の価格が高止まりし、なかなか下がらない状況が続いています。家計を預かる消費者にとっては大きな負担となり、「なぜ米の価格は下がらないのか?」と疑問に思う人も多いでしょう。
 
実は、米の価格には特殊な決まり方があり、さらに政府の政策や流通の仕組みが重なり合うことで、価格が下がりにくい構造が生まれています。本記事では、その背景を整理して解説します。
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米価格が下がらないのはなぜ? 背景にある「3つの価格」とその構造

米の価格は、消費者が目にするスーパーの値札だけでなく、いくつかの段階的な価格があります。代表的なのが、農協(JA)が農家に提示する「概算金」、JAや卸売業者間で決まる「相対取引価格」、そして消費者が支払う「小売価格」です。これらは、生産者に支払われる概算金が起点となり、流通段階ごとに価格が積み上がる形で成り立っています。
 
さらに、JAは流通シェアの約4割を握る大きな影響力を持ちます。農家と卸売業者、そして小売店との間で価格を一気に下げることは難しく、価格の硬直性を生む要因になっています。この「多層的な価格構造」と「流通の統制力」が、米の価格を押し下げにくい大きな理由なのです。
 

政府の備蓄米はなぜ価格抑制につながりにくいのか?

「米の価格が上がるなら、政府の備蓄米を放出すればいいのでは?」と考える人もいるでしょう。実際に政府は一定量の米を備蓄し、価格が急騰した際に市場へ供給する仕組みを持っています。しかし、この制度は想定ほど効果を発揮していません。
 
その理由の一つが、入札条件の厳しさです。備蓄米を落札できるのは、玄米を数千トン単位で扱える大規模な事業者に限られており、中小の流通業者や地域のスーパーには手が届きません。
 
また、落札した業者は同じ量を一定期間内(現在は1年以内から5年以内に緩和中)に政府へ買戻す義務があり、在庫リスクを抱えることになります。このような仕組みでは、結果的に一部の大手だけが備蓄米を扱う構造となり、市場全体の価格抑制効果は弱まってしまうのです。なお、2025年産新米については買戻し義務の対象外となる方向です。
 

生産調整政策や補助金が生む“価格の硬直性”

米の価格が下がりにくい背景には、過去の政策も影響しています。かつて政府は「減反政策」と呼ばれる仕組みで、生産量を意図的に抑えてきました。農家には補助金を交付し、過剰生産による価格下落を防ぐ狙いがあったのです。結果として米の供給は安定しましたが、逆に価格が高止まりする傾向が続くことになりました。
 
さらに、近年は気候変動による不作やインバウンド需要の増加が重なり、価格が上昇しています。特に2023年の猛暑で収穫量が落ち込んだ際や、観光客が急増して外食需要が膨らんだときには、供給不足が一気に表面化しました。こうした需要と供給の変動に対して、従来の制度は柔軟に対応しづらく、結果として価格の上昇を抑えきれない状況になっています。
 
現在は、減反政策からの転換が進み、生産量を増やす方向へとかじが切られています。将来的には輸出を拡大して農家の収益を支える計画もありますが、短期的にはコスト面や流通の仕組みを整える必要があり、すぐに価格が下がる見込みは立ちにくい状況です。
 

複雑に絡み合う要因と今後の視点

米の価格が下がらないのは、単純に需要が多いからという理由だけではありません。複数の価格が連動する独特の仕組み、JAの統制力、政府の備蓄制度の限界、そして過去の生産調整政策といった要素が複雑に絡み合い、価格を押し下げにくい構造をつくり出しているのです。
 
ただし、これは必ずしもマイナスばかりではありません。農家の経営を安定させ、食料の安定供給を守る役割も果たしています。重要なのは、消費者負担と農業保護のバランスをどう取るかという点です。
 
今後は、流通の柔軟化や備蓄制度の見直し、価格変動に対応できる市場メカニズムの整備が課題となるでしょう。複雑な仕組みを理解することで、消費者としても米の価格動向をより冷静に見守り、将来の食料政策を考えるきっかけにすることができます。
 

出典

農林水産省 米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針
 
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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