現在は「時給1163円」で“年収130万円”以内に抑えている私。時給が「1226円」に上がって“年収の壁”を超えると、扶養から外れますか?
本記事では直近で発表された賃上げの情報と、年収130万円を超えると手取りがどのように変化するかを解説します。
FP1級、CFP、DCプランナー2級
目次
労働者の最低賃金が過去最大の「63円アップ」。39道府県は目安超え
2025年8月4日に、中央最低賃金審議会が「全国平均の時給を63円引き上げる」という今年の目安を示しました。引き上げ金額としては過去最大で、目安通りに引き上げられると全国平均の時給は「1118円」になります。
そして、9月4日までに都道府県ごとの引き上げ額が出そろいました。これまでは最低時給が1000円を超える自治体と超えない自治体がありましたが、39道府県が目安の63円を上回り、全ての都道府県で1000円を超えることになりました。
政府は最低賃金を2020年代に全国平均で1500円とする目標をすでに掲げており、今後も賃上げの流れは続くと考えられます。
年収130万円を超えると社会保険に加入することになる
時給が上がると短時間で効率的に稼げるため、本来は歓迎できるものです。ただ、すでに扶養の範囲内ギリギリで働いている人の場合、時給が上がることで扶養から外れてしまう可能性があります。
例えば、2025年8月26日現在の東京都の最低時給は1163円です。
東京都在住のAさんが、事業所の人数が20人の会社に就職して最低時給で月90時間働くと「1163円×90時間×12ヶ月=約125万6000円」となります。
現行の制度では、事業所の従業員が50人以下なら、また月90時間という働き方は正社員の4分の3未満であるため、社会保険に加入する義務がありません。この場合、年収が130万円未満であるため、配偶者の扶養に入り続けることができます。
一方、年収が130万円以上になると、会社の規模に関わらず扶養から外れ、自身で国民健康保険・国民年金に加入するか、勤務先の社会保険に加入する義務が生じます。
今回の賃上げで東京都の最低時給は63円アップして「1226円」になる見込みですから、労働時間が同じだと「1226円×90時間×12ヶ月=約132万4000円」となり、社会保険への加入義務が生じることになるのです。
パートナーの扶養を外れて社会保険への加入をしたくないなら、年収130万円以下に収まるように労働時間を調整する必要があります。
社会保険料負担がない年収120万円と同じ手取りになるために必要な年収は?
年収130万円を超えると、パート先の社会保険に加入する、または国民健康保険・国民年金に加入する必要があります。パート先の社会保険に加入したとすると、新たに社会保険料として「厚生年金保険料」「健康保険料」がかかるようになります。
今回は簡易化のため、この2つに絞って計算を行います。
健康保険料は、「標準報酬月額×保険料率」で算出できます。東京都の健康保険料率は9.91%です。
年収130万円(月給約10万8000円)の標準報酬月額は11万円、40歳未満の人の健康保険料率は9.91%なので11万円×9.91%=1万901円、会社との折半になるため月額5450円、年間6万5400円が自己負担額となります。
厚生年金の保険料は、「標準報酬月額×保険料率」で計算できます。保険料率は18.3%なので、11万円×18.3%=2万130円となり、会社との折半なので月額1万65円、年額では12万780円が自己負担です。
つまり、年収130万円から健康保険料と厚生年金保険料を引くと約111万5000円になり、元々年収120万円で社会保険がかからない人からみれば、「年収は上がったのに手取りは下がった」という逆転現象が起こることになります。
では、社会保険料負担がない年収120万円と同じ手取りになるために必要な年収は、いくらでしょうか。
結論としては、年収140万4000円、月給で11万7000円稼ぐ必要があります。
月給11万7000円の標準報酬月額は11万8000円です。上記と同様に保険料の自己負担額を計算すると、健康保険は5846円×12月=7万152円、厚生年金保険は1万797円×12月=12万9564円になります。140万4000円-19万9716円=120万4284円が手取りです。
以上の通り、これまで年収120万円だった人が、最低賃金アップにより130万円の壁を超えて扶養から外れることになった場合、年収140万円を目標にすれば逆転現象を解消できることになります。
まとめ
時給が上がることは喜ばしいことですが、すでに扶養ギリギリで働いている人は扶養から外れる可能性もあります。ただ、扶養から外れても働き方を工夫して稼ぎを増やすことで、社会保険で減った手取りを取り戻すことも可能です。
どの働き方がもっとも得なのか、時給アップに合わせてシミュレーションしてみることをおすすめします。
出典
厚生労働省 地域最低賃金の全国一覧
厚生労働省 令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について
全国健康保険協会 令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)
執筆者 : 高柳政道
FP1級、CFP、DCプランナー2級
