38歳会社員ですが、8月の手取りが「5000円」減っていました。残業時間は増えてないのに、なぜですか? 勝手に“減給される”こともあるのでしょうか?
給与(残業代を含まない)の手取り額が変わるタイミングは、一般的に4月の昇給・昇格による賃金改定と、9月に行われる「定時決定」に基づく社会保険料の見直しの2つがあります。一方で、8月の給与支給時に手取り額が変わるケースもあり、これには「随時改定」と呼ばれる社会保険料の仕組みが関係しています。
本記事では、随時改定の仕組みと、随時改定と定時決定の違い、随時改定が行われた際に8月の給与手取り額から反映される理由について解説します。
FP2級、日商簿記3級、管理栄養士
随時改定と定時決定の違いは?
厚生年金保険料や健康保険料の金額は、賃金に応じて等級ごとに区分された「標準報酬月額」と呼ばれる金額を社会保険料算定の基礎として、その金額に保険料率をかけて算出します。多くの場合、社会保険料は会社と従業員が折半して負担するため、自己負担の金額は半額となります。
社会保険料は給与の額に応じて見直され、見直しには次の2つのパターンがあります。
・定時決定:毎年4~6月の給与平均を基に標準報酬月額を見直し、9月から適用される
・随時改定:基本給や固定手当の大きな変動があった場合に、定時決定を待たずに標準報酬月額を見直し、給与の変更月から4ヶ月目の保険料から適用される
給与に大きな変動があった場合、定時決定まで待つと、実際の給与と標準報酬月額にずれが生じ、社会保険料の徴収額にもずれが出てしまいます。本来徴収するべき社会保険料の金額を速やかに反映させるため、随時改定という仕組みが存在します。随時改定が適用される要件は次の3つです。
・基本給や通勤手当などの固定的な賃金に変動がある(残業代などの臨時的なものは除く)
・賃金が変動した月から3ヶ月間に支給された平均月額に該当する標準報酬月額が、これまでの標準報酬月額と比べて2等級以上変わる
・給与算定における各月の支払基礎日数が17日以上ある(短時間勤務者は11日以上)
これらの要件を全て満たした場合に随時改定が適用され、社会保険料の徴収額に反映されます。
なぜ8月の手取り額から下がるの?
今回のタイトルにあるように、8月の手取り額から影響が出る理由を具体的なケースで考えてみましょう。
一般的な昇給・昇格のタイミングである4月に基本給が改定(増額もしくは減額)されたとします。4月から3ヶ月間の4~6月間の給与を平均した結果、標準報酬月額がそれまでの標準報酬月額と比べて2等級以上変われば、7月分から新しい等級が適用された社会保険料となります。
多くの会社において、厚生年金保険料や健康保険料は翌月の給与から控除します。そのため、7月分の保険料が8月の給与から差し引かれ、8月の手取り額が下がることになるのです。
影響額はどれくらい? 具体的なシミュレーションで解説
社会保険料にどの程度の影響があるのか、基本給が26万円から30万円に昇給したケースで具体的に計算してみましょう。
居住地:東京都
年齢:38歳
保険料率:厚生年金保険料率18.3%(自己負担は9.15%)、健康保険料率9.91%(同4.955%)
昇給前の標準報酬月額:26万円(健康保険料算定:20等級、厚生年金保険料算定:17等級)
昇給後の標準報酬月額:30万円(健康保険料算定:22等級、厚生年金保険料算定:19等級)
標準報酬月額が26万円から30万円に上がり、差は4万円です。
厚生年金保険料の計算結果:4万円×9.15%=3660円
健康保険料の計算結果:4万円×4.955%=1982円
合計した5642円が社会保険料の増加額となります。
手取り額がいつもと違うと思ったら社会保険料を確認しよう
昇給や昇格などによって大幅に基本給が増えた場合などは、随時改定の仕組みによって社会保険料が増加することがあります。多くの場合、4月に賃金が改定される会社が多いため、4~6月の給与額で判定され、随時改定により7月分から社会保険料が増額されると、実際に給与から増額後の保険料を引かれ始める8月に手取り額が下がることになります。
手取り額がいつもと異なるからといって、「減給かもしれない」と心配する前に、給与明細の社会保険料を確認してみましょう。
出典
日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
日本年金機構 随時改定(月額変更届)
全国健康保険協会 令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京支部)
執筆者 : 東雲悠太
FP2級、日商簿記3級、管理栄養士
