やっと決まった就職先なのに…入社1ヶ月で「退職してほしい」と言われた! 試用期間は3ヶ月なら「月給30万円×3ヶ月分」支払ってもらえますか?【社労士解説】
本記事では、試用期間の意味や試用期間中の解雇、解雇に伴うお金について説明します。
特定社会保険労務士・FP1級技能士
試用期間とは?
試用期間とは、新しく採用した従業員の能力や適性を見極め、本採用すべきかどうか会社が判断するための期間です。書類選考や面接だけでは分からないその人の人柄や業務能力を、実際に働いてもらいながら、確かめる期間とも言えます。
試用期間の長さは会社によって違い、「1ヶ月」のところもあれば「6ヶ月」の会社もあります。入社した人に問題がなく、従業員として適格だと判断された場合は、試用期間が終われば本採用されます。
本採用拒否
しかし、何らかの原因で本採用に至らず、試用期間の満了とともに退職となる人もいます。例えば試用期間が3ヶ月の場合、3ヶ月間が終わった時点で本採用を拒否されるケースです。
本採用の拒否とは、事実上、試用期間満了での「解雇」と同じ扱いになります。試用期間は「雇用契約は成立しているが、解約権が留保されている状態(三菱樹脂事件)」のことを指します。
そのため、試用期間での解雇は、本採用後の解雇よりも広い理由が認められていますが、それでも本採用拒否の理由は、客観的に合理的で、誰が見ても納得するようなものでなければなりません。
例えば「能力不足が著しく改善の余地がない」「出勤状況が非常に悪い」などの理由が挙げられます。また、重大な経歴詐称や犯罪例の隠匿なども本採用拒否の理由に該当するでしょう。ただし、理由には客観性が必要で、単に会社側が気に入らないと判断するだけでは足りません。
試用期間中の解雇
3ヶ月の試用期間が設定されているのに、試用期間の途中で辞めさせられる人もいます。このこと自体は「解雇せざるを得ないような相応の理由」があれば、違法ではありません。
しかし、試用期間満了を待たずに途中で解雇するのですから、本採用拒否の場合よりも強い解雇理由が必要となります。判例でも「より一層高度の合理性と相当性が求められる(ニュース証券事件)」とされています。
試用期間とお金の関係
就職したばかりの会社を解雇されたら、気になるのは当面の生活費ではないでしょうか。求職活動期間が1年以上になるような場合は、基本手当(失業給付)は既に受給し終えている人も多いかと思われます。そうなると頼りにできるのは、1ヶ月だけでも勤務した会社からの賃金ということになるでしょう。
試用期間と賃金
試用期間が3ヶ月あるところ、1ヶ月で解雇された場合、賃金はどのくらいもらえるのでしょうか?「試用期間は3ヶ月と言われたから、1ヶ月で解雇されても3ヶ月分もらえるのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、よほど特別な事情のない限り、もらえる賃金は「働いた分だけ」、つまり1ヶ月分の賃金である30万円のみです。
たとえ試用期間が3ヶ月あったとしても、試用期間は「勤務開始日を始期とする雇用契約の一部」であって、「3ヶ月契約」ではありません。
期間の定めのある雇用契約を会社の都合で一方的に解除した場合、契約解除の理由によっては契約期間満了までの賃金を請求できることもあり得ますが、試用期間はそのようなケースとは異なります。
試用期間と解雇の手続き
では、会社からもらえる額は、1ヶ月分の賃金「30万円」だけなのでしょうか? 実は「30万円」にプラスされる可能性のあるお金もあります。それは解雇予告手当です。
本採用拒否の場合も、試用期間途中の解雇も、入社から14日以内の場合を除き、少なくとも30日前に解雇の予告をする解雇予告か、予告をしない場合には解雇と同時に30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが義務付けられています。
平均賃金の30日分は、1ヶ月分の賃金と完全にイコールとは限りませんが、月給者の場合は、かなり近い額になります。そのため、今回の事例では、会社から受け取れる金額は、働いた1ヶ月分の賃金と30日分の解雇予告手当で、合計60万円程度になると考えられます。
まとめ
月の総支給額が30万円の人が、試用期間満了を待たず1ヶ月で即時解雇された場合、手にできるのは1ヶ月分の賃金と解雇予告手当です。
なお、試用期間満了前の解雇は違法ではありませんが、相応の理由が必要とされます。もし解雇に納得がいかない場合は、会社に解雇理由証明書を出してもらい、善後策を考えることも一手でしょう。
出典
e-Gov法令検索 労働契約法
全国労働基準関係団体連合会 ニュース証券事件
厚生労働省 労働契約の終了に関するルール
執筆者 : 橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士
