結局「103万円の壁」はどうなったの? 今年はいくらまでだったら扶養内で稼げるのでしょうか?
本記事では「『103万円の壁』とは何か?」「令和7年度税制改正は『103万円の壁』にどのような影響を与えるのか?」について解説します。扶養されている配偶者だけでなく、親族の方も参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
「103万円の壁」とは何か?
「103万円の壁」という言葉には、「所得税の課税基準としての意味」と「所得控除の適用基準としての意味」があります。このうち、“扶養”に関わるのは「所得控除の適用基準としての意味」のほうです。
所得控除を受けることで納税者本人(扶養者)の所得税を抑える効果がありますが、そのためには控除対象者(被扶養者)の要件を満たす必要があります。控除対象者の要件のうち、本記事においてポイントとなるのは「所得要件」です。
令和6年度(改正前)までの“扶養”に係る主な所得控除と控除対象者の所得要件は以下のとおりです。
| 所得控除 | 控除対象者 | 所得要件 |
|---|---|---|
| 配偶者控除 | 配偶者 | 年間の合計所得金額が48万円以下 |
| 配偶者特別控除 | 配偶者 | 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下 |
| 扶養控除 | 配偶者以外の親族 | 年間の合計所得金額が48万円以下 |
※ 筆者作成
「合計所得金額」とは各所得金額の合計額のことをいいますが、収入が給与収入のみの場合は「給与所得金額」と読み替えても差し支えありません。給与所得金額は、以下の計算式によって算出します。
収入(年収)-給与所得控除額=給与所得金額
「給与所得控除額」の最低保証額は、本記事の執筆時点(令和7年10月時点)において「55万円」です。所得要件の「年間の合計所得金額が48万円以下」を満たすためには、この計算式の「給与所得金額」を48万円以下にする必要があります。すると、以下のような計算式を作ることができます。
収入(年収)-給与所得控除額55万円≦給与所得金額48万円
これを計算すると、以下のようになります。
収入(年収)≦103万円
これが「103万円の壁」の根拠です。
令和7年度税制改正は「103万円の壁」にどのような影響を与えるのか?
令和7年度税制改正の概要は、以下のとおりです。
(1)基礎控除の見直し
(2)給与所得控除の見直し
(3)特定親族特別控除の創設
(4)扶養親族などの所得要件の改正
このうち“扶養”に影響を与えるのは(2)(3)(4)です。分かりやすさを考慮し、(4)(3)(2)の順で解説していきます。
(4)は「扶養親族と同一生計配偶者の合計所得金額の要件を58万円以下に引き上げる」というものです。この金額の引き上げは、基礎控除および給与所得控除の見直しにより、非課税となる所得の範囲が広がることを踏まえて行われました。
つまり、これまで「合計所得金額48万円以下」とされていた扶養控除や配偶者控除などの所得要件が、改正後は「58万円以下」に変更されることになります。これにより、前項の所得控除と控除対象者の所得要件に係る一覧表(以下「一覧表」といいます)が以下のように変わります(「48万円」を「58万円」に変更)。
| 所得控除 | 控除対象者 | 所得要件 |
|---|---|---|
| 配偶者控除 | 配偶者 | 年間の合計所得金額が58万円以下 |
| 配偶者特別控除 | 配偶者 | 年間の合計所得金額が58万円超133万円以下 |
| 扶養控除 | 配偶者以外の親族 | 年間の合計所得金額が58万円以下 |
※ 筆者作成
(3)は「合計所得金額が58万円超123万円以下の特定親族がいる場合、その特定親族の合計所得金額に応じて最高62万円の控除を受けることができる」というものです。これにより、一覧表が以下のように変わります(「特定親族特別控除」の項目が追加)。
| 所得控除 | 控除対象者 | 所得要件 |
|---|---|---|
| 配偶者控除 | 配偶者 | 年間の合計所得金額が58万円以下 |
| 配偶者特別控除 | 配偶者 | 年間の合計所得金額が58万円超133万円以下 |
| 扶養控除 | 配偶者以外の親族 | 年間の合計所得金額が58万円以下 |
| 特定親族特別控除 | 特定親族 | 年間の合計所得金額が58万円超123万円以下 |
※ 筆者作成
(2)は「給与所得控除額の最低保証額を55万円から65万円に引き上げる」というものです。
これらを踏まえ、再度、所得要件について確認してみます。合計所得金額(本記事においては「給与所得金額」)の計算式は、以下のとおりです。
収入(年収)-給与所得控除額=給与所得金額
所得要件の「年間の合計所得金額が58万円以下」を満たすためには、以上の計算式の「給与所得金額」を58万円以下にする必要があります。すると、以下の計算式を作ることができます。
収入(年収)-給与所得控除額65万円≦給与所得金額58万円
これを計算すると、以下のようになります。
収入(年収)≦123万円
よって、「103万円の壁」は令和7年度税制改正によって「123万円の壁」に変わったといえます。なお、配偶者特別控除の適用を受ける場合は年収160万円(合計所得金額95万円)以下、特定親族特別控除の適用を受ける場合は年収150万円(合計所得金額85万円)以下であれば、それぞれ満額控除を受けることができます。
この税制改正は令和7年分の所得税について適用されます。したがって、年収を103万円以内に抑えて“扶養内”で働いていた方は、令和7年分は年収123万円までだったら“扶養内”で働くことができるでしょう。
まとめ
本記事では「『103万円の壁』とは何か?」「令和7年度税制改正は『103万円の壁』にどのような影響を与えるのか?」について解説しました。まとめると、以下のとおりです。
・「103万円の壁」とは「所得要件48万円(以下)」に「給与所得控除額55万円」を加えて算出した所得控除の適用基準である
・令和7年度税制改正は「所得要件の引き上げ」「特定親族特別控除の創設」「給与控除額の最低保証額の引き上げ」によって「103万円の壁」を「123万円の壁」に引き上げる
令和7年度税制改正により、扶養内で働ける年収が引き上げられます。また、本記事では解説をしませんでしたが、令和7年度税制改正により基礎控除額も引き上げられます。給与所得控除の引き上げとともに、家計の税負担が軽くなることが期待されます。
税制については、「複雑」「分かりにくい」「難しい」という印象を持たれるかもしれません。本記事が税制を理解するに当たり、お役に立てば幸いです。
参考・出典
首相官邸 「いわゆる『年収の壁』対策」
国税庁 「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
国税庁 「No.1400 給与所得」
国税庁 「No.1410 給与所得控除」
国税庁 「No.1199 基礎控除」
国税庁 「No.1191 配偶者控除」
国税庁 「No.1195 配偶者特別控除」
国税庁 「No.1180 扶養控除」
執筆者 : 中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
