「年収の壁」の話題をよく見かけるけど、会社員にも関係ありますか? どのようなメリットがあるのか、よく分かりません
本記事で、「年収の壁」は会社員にどのような影響があるのか見てみましょう。なお、ここでは会社員を夫、短時間労働者を妻と仮定して話を進めます。
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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年収の壁の基本構造
「年収の壁」とは、一定の年収を超えることで税金や社会保険料の負担が発生し、手取り収入が減る可能性がある、配偶者の扶養控除が減少していく境界線のことです。
1. 106万円の壁
妻のパート先の従業員数が50人超で週20時間以上勤務し、年収が106万円を超えた場合は、社会保険に加入することが義務付けられます。その結果、概算で16万円程度の負担増になります。その一方で、将来受け取る年金額が増加し、傷病手当金や障害手当金も該当すれば支給されるメリットがあります。
2. 110万円の壁(地域によって異なる)
年収が110万円を超えると、住民税がかかります。ただし、住民税は前年の所得をベースに計算されるため、実際には1年遅れです。具体的には5000円プラス年収110万円を超えた部分に対して約10%ですから、金額としては1万円以下の場合が多いと思われます。
なお、「110万円」というボーダーラインは地域によって異なり、108万円の場合もありますので、具体的には住所地の公式サイトで確認する必要があります。
3. 130万円の壁
妻のパート先の従業員数50人以下場合、年収130万円を超えると妻は夫の扶養から外れ、国民健康保険や国民年金の保険料を妻自身で負担する必要が出てきます。具体的には、令和7年度の国民年金保険料が月額1万7510円、年間で21万120円、国民健康保険料が年間約11万円(年齢や地域によって異なる)となり、合計で約32万円とかなり重い負担です。
4. 160万円の壁
これを超えると、所得税がかかります。ただし、社会保険料を支払うと、社会保険料控除の適用になり所得が減るので、実際は200万円前後になるまでは所得税負担ということにはつながらない可能性が高いです。しかし一方で、夫の配偶者控除が減少するため、夫に課税される税負担が重くなっていきます。
このように、配偶者の働き方によっては保険料負担が増え、家計に影響する可能性があるため、家計世帯全体で「年収の壁」を考えることが重要になります。
例えば、配偶者(妻)が壁を超えて働くことで、妻自身が扶養から外れたり、会社員本人(夫)の所得控除が減ったりして、世帯全体の税負担が増える可能性があるためです。結果的に、会社員である夫自身の収入が変わらなくても、世帯の手取りに影響するため、家計全体で考える必要があります。
会社員が意識すべき「壁」
会社員自身が「年収の壁」に直接関係することもさることながら、配偶者の働き方や家計全体の可処分所得、ライフプラン設計においては重要な要素です。例えば、以下のような視点で考えるとよいでしょう。
・配偶者が壁を超えて働くことで、世帯収入が増えるかどうかを試算する
・控除の減少による税負担増と、収入増の双方から家計収入がプラスになるかマイナスになるかを見極める
・社会保険加入による将来の年金増加分も含めて長期的に判断する
短期的な手取りだけでなく、老後の年金や保障の充実も視野に入れて働き方を選ぶことが求められます。
「年収の壁」を正しく理解して、最適な家計の収入設計を考えよう
「年収の壁」は一見、扶養内で働く人だけの問題に見えますが、実際には会社員の税金や家計にも影響を与える重要な制度です。2025年の改正で壁の基準が変わることで、働き方の選択肢が広がる一方、制度の理解が不十分だと損をする可能性もあります。
会社員としては、配偶者の働き方や控除の仕組みを正しく理解し、世帯全体での最適な収入設計を考えることが大切です。制度の変化に合わせて、柔軟に対応できるようにしておきましょう。
出典
国税庁 No.1410 給与所得控除
厚生労働省 社会保険の加入対象の拡大について
日本年金機構 国民年金保険料
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者
