パート先で「時給50円アップ」すると、手取りが「年16万円」減る!? 最低賃金アップで「年収106万円超」になるのですが、扶養を抜けないほうが得でしょうか…?
しかし、一方で「時給が上がったせいで、社会保険に加入することになった」という人もいます。時給アップで収入は増えても、新たに発生する社会保険料の負担のせいで、以前より手取りが減ってしまう人もいるのです。
目先の手取り額を維持するために労働時間を減らすべきか、それとも将来の保障のために手取りの減少を受け入れるべきか……社会保険加入の仕組みとそれぞれのメリット・デメリットを本記事で詳しく解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
時給50円アップで年間16万円の負担増となる理由
従業員が51人以上の企業で働くパートやアルバイトは、次の4つの要件を満たすことで社会保険の加入義務が発生します。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額の賃金が8万8000円以上
・2ヶ月を超えて働く見込みがある
・学生ではない
1日4時間・週5日で週20時間働く人の1ヶ月の労働時間は、平均するとおおむね87時間(週20時間×52週÷12ヶ月で計算)となります。
時給1000円で働く人の場合、月収は8万7000円となるため、社会保険の加入義務に該当しません。しかし、2025年の最低賃金改定により多くの都道府県で週20時間働くと、月の賃金が8万8000円を超える状況となりました。
例えば、奈良県の場合11月16日より最低賃金が986円から1051円にアップします。仮に1051円で週20時間(月87時間)働くと月収は約9万1400円となり、社会保険の加入義務に該当してしまうのです。
時給が1051円となり、月収9万1400円で奈良県協会けんぽに40歳以上(介護保険加入)の人が加入した場合、健康保険料として月5108円、厚生年金保険料として8052円の負担が発生します。合計で1万3160円、年間で15万7920円が給与から天引きされることとなるのです。
社会保険に加入するメリット・デメリットは?
今回のケースでは、「手取りの減少を受け入れて社会保険に加入する」か「勤務時間を減らして手取りを維持する」かで悩む人も多いでしょう。どちらもメリット・デメリットがあるため自分に合った選択が重要です。
社会保険に加入すると手取りは減りますが、将来と万一への安心が手に入ります。社会保険に入ることの最大のメリットは、将来もらえる年金が増えることです。
国民年金に加えて厚生年金が上乗せされるためで、今回のケース(月収9万1400円)だと1年間保険料を支払うことで、将来の年金額を年間約5800円増やせます。
年間15万7920円の負担増の元を取るには約27年かかる計算で、65歳から年金をもらい始めた場合92歳まで生きる必要がありますが、人生100年時代においては終身で受け取れる年金が増えるのは大きな支えとなるでしょう。
ほかにも、病気やけがで連続4日以上働けなくなった際に給与の約3分の2が支給される「傷病手当金」が受けられるなど、万一の際の備えとなるのも大きなメリットです。
加えて、収入の壁を気にして勤務時間を調整する「働き控え」から解放されるというメリットも見逃せません。これを機に勤務時間を増やしてキャリアアップする道を選んでも良いでしょう。
一方、勤務時間を減らすなどして加入しない選択をした場合の最大のメリットは、短期的な手取り額を維持できる点です。同じ額の給与をもらいながら自由な時間が増やせることを、魅力に感じる人もいるでしょう。
ただし、勤務時間を週20時間未満に減らした場合、「雇用保険」の対象からも外れてしまいます。将来失業することになったとき、手当を受け取れないのはデメリットです。
また、今後も最低賃金は上昇していくと見込まれます。働き控えはいずれ限界が来ることも意識しておきたいところです。
メリット・デメリットを理解した上で社会保険加入を決めよう
時給アップによる社会保険加入は、短期的に見れば手取りが減るため「損」と感じるかもしれません。しかし、それは将来の年金や手厚い保障、働き方の自由度を高める「未来への投資」という面もあります。
一方、時給アップの恩恵を最大限に受けるために、扶養の範囲内で働き続けるのも1つの方法です。双方のメリット・デメリットを考えた上で、自分の考えに合ったほうを選びましょう。
出典
厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧
執筆者 : 浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
