SNSで「育休フルでとって退職」に賛否…「制度の悪用やめて」「違法じゃない」最初から“復職しない前提”での利用はNG? 問題点を確認
「制度の悪用だ」という声がある一方、「違法ではない」という指摘も多く、議論は大きく揺れています。そもそも育休制度はどんな目的で作られているのか、この制度の趣旨に照らしたとき、今回のケースはどこに問題があると受け止められているのでしょうか。
育休とは何のための制度なのか。フルで取得して退職することは法律上問題があるのか。そして、否定的な意見が集まりやすい“モヤッと感”の背景には何があるのか。制度のポイントとともに整理していきます。
AFP
目次
育児休業制度の目的は「働きながら子育てできる社会」をつくること
そもそも育児休業制度はどのような目的で設けられているのかを整理しましょう。まず育休は単に「休むための制度」ではなく、親が安心して復職できるようにするための“職場復帰前提の仕組み”です。この前提を理解しているかどうかで、感じ方も大きく変わります。
育児休業制度の基本的な目的
育児休業は、育児・介護休業法に基づく制度で、父母が子どもを育てるために一時的に仕事を離れられる仕組みです。目的はあくまで「子育てと仕事の両立を支援すること」にあります。
制度に付随する復職前提の仕組み
育休制度には、以下のような復職を前提とした保護措置が含まれています。
・育休後は原則として元の職場に復帰できる
・解雇や不利益取り扱いは禁止
・雇用保険から育児休業給付金が支給される
制度の根本には「復帰」が組み込まれているのです。
育休後に退職しても違法ではない
SNSでは「制度の悪用では?」「違法なのでは?」という声も多く見られました。しかし、法律上は育休後の退職を禁じるルールはありません。
SNSで特に議論されたのが「育休後に退職するのは違法では?」という点ですが、法律的には問題ありません。育休後に退職しても、育児休業給付金は不正受給でない限り返還は不要です。
また、取得時点では復職を想定していても、途中で事情が変わることもあります。
例えば、配偶者の転勤、保育園に受からなかった、体調が変化し働けなくなったなどで、復職できない事情は珍しくありません。そのため制度は柔軟に運用できるように作られています。
批判が出る理由は“モラル”の問題が残るから
法的に問題がないにもかかわらず、SNS上では否定的な意見が多く見られました。その背景には、「育休を取得する時点ですでに退職を決めていたのではないか」という疑念があります。
とくに今回の投稿では、「復職する意思がないことを職場に伝えないまま、育休をフルで取得した」という点が問題視されました。このようなケースでは、制度の趣旨と行動がかみ合っていないと受け止められやすく、モラル面での違和感が生まれやすくなります。
(1)制度の目的から外れた印象が生まれる
育休はあくまで「復職を前提」に設計された制度です。最初から退職するつもりで取得していた場合、「制度の想定から外れているのではないか」という印象を持たれやすくなります。これは法律違反かどうかではなく、「制度の前提を共有していなかったこと」への違和感といえるでしょう。
(2)企業側の負担が大きい
企業は、育休取得者が復職する前提で、代替要員の確保や業務調整を行います。もし、復職しないことが最初から分かっていれば取らなかった対応も小さくありません。復帰前提で準備した結果「辞めます」となれば、「前提が崩された」と感じる企業側の不満につながりやすくなります。
(3)同僚の不公平感
育休中の業務をカバーする同僚も、「いずれ戻ってくる」という前提で協力しています。そのため、復職しないことを前提にしていたと知れば、「知らされていなかった」という感情が、不公平感や不信感につながりやすくなります。
一方的に“悪用”と断言してはいけない
法的には問題がない一方で、SNSでは「制度の悪用ではないか」といった反発が多く見られます。この議論は、法律の問題というよりも、制度の使われ方に対する受け止め方や印象に基づくものといえます。
しかし、育休後に退職する人すべてが「制度を悪用している」とは限りません。実際には、これまで見てきたように家庭の事情や体調不良などやむを得ない事情で復職を断念するケースが多く存在します。
制度の信頼を保つために必要な視点とは
制度の信頼を保つために必要なのは、個別の事例と制度そのものを切り分けて捉える視点です。育休後に退職するケースが一部で切り取られ、「制度の悪用」といった評価につながりやすい背景には、育休制度の趣旨や法的な位置づけが十分に共有されていない現状があります。
育児休業制度は、子育てと仕事の両立を支援するために設けられた仕組みであり、個々の事情によって復職に至らないケースが生じることも制度上想定されています。にもかかわらず、個別の行動が制度全体の評価と結び付けられることで、議論が感情的になりやすくなる点は否定できません。
制度への誤解や不満を減らすためには、「どのような制度なのか」と「その制度の中で起きた一つの事例」を冷静に整理し、それぞれを分けて考える姿勢が欠かせないと言えるでしょう。
まとめ
育休をフルで取得したあとに退職することは、法律上まったく問題ありません。ただし、復職を前提とした制度である以上、最初から退職するつもりで、それを伏せて取得する行為については、モラル面で疑問を持たれやすいのも事実です。
一方で、保育園不承認や体調不良など、本人の努力ではどうにもならない事情も多く、単純に“悪用”と断じることもできません。
制度の誤解を減らすには、企業と利用者の関係だけでなく、同僚や周囲の受け止め方にも目を向ける必要があります。関係者間での丁寧な情報共有が、不要な反発を和らげる助けになります。
執筆者 : 宇野源一
AFP
