【FPが検証!】「夫ひとり年収1000万円」vs「夫600万円+妻400万円」手取りが多いのはどっち? 手取りの差をシミュレーション

配信日: 2025.05.30 更新日: 2025.10.21
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【FPが検証!】「夫ひとり年収1000万円」vs「夫600万円+妻400万円」手取りが多いのはどっち? 手取りの差をシミュレーション
同じ世帯年収1000万円でも、「1人で稼ぐ世帯」と「600万円+400万円の共働き世帯」では、手取りに差が出ます。どちらが家計にとって有利なのか、気になる人もいるかもしれません。
 
こうした差は、所得税の累進課税や控除の仕組みによって生まれるものです。本記事では、夫婦と小学生の子ども2人という家族モデルをもとに、どれくらいの手取り差になるのかをみていきます。
浜崎遥翔

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

世帯年収は同じでも手取り額はこう変わる

世帯年収が同じでも1人で稼ぐのと共働きで稼ぐのでは手取りに差がつきますが、その理由はなんでしょうか?
 
手取り額に影響する主な要素は、社会保険料、所得税、住民税の3つです。それぞれの負担がどう変わるのかを順に見ていきます。
 

社会保険料は年収に比例するが、年収1000万円では上限に達することもある

社会保険料は、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・雇用保険料の4つで構成されており、会社員の場合は合計でおおむね給与の15%が徴収されます。
 
年収ごとの目安は年収1000万円の人であれば年間の社会保険料は約150万円、600万円の人は約90万円、400万円の人は約60万円です。世帯全体で見ると、どちらのケースでも合計の保険料負担はおよそ150万円と変わりません。
 
ただし、厚生年金保険料には上限があります。月収は65万円、賞与は1回150万円を超えるとそれ以上の部分には保険料がかからない仕組みです。
 
年収1000万円でも、月収62万5000円とボーナス125万円×2回というモデルでは、いずれも上限に届かないため、年収全体に対して保険料がかかります。結果として、負担額は約150万円のままです。
 
一方、ボーナスのない年俸制で月83万3333円を均等に受け取っている場合は、月収が上限(65万円)を超えます。
 
厚生年金保険料の計算対象はそこで打ち止めとなるため、年間の社会保険料は約129万円となり、1人で稼ぐ世帯のほうが共働き世帯よりも負担が少なくなることもあるのです(ただし、これ以降はボーナスありのパターンでシミュレーションを続けます)。
 

所得税は累進課税のため、年収が上がると「税率」が上がる

1人で1000万円を稼ぐ世帯と2人で稼ぐ世帯では所得税に大きな差が出てきます。理由は「2人のほうがより大きな控除を受けられること」と「所得税が累進課税であること」です。所得税を求める手順は次のとおりです。


・手順1 給与収入から給与所得控除を引いて給与所得を求める
・手順2 給与所得から各種控除を引いて課税所得を求める
・手順3 課税所得を所得税の速算表に当てはめて所得税額を求める

図表1はその過程を示したものです。まず給与所得控除は給与収入が低い人ほど控除率が高くなる仕組みなので、手順1の時点で差がついてしまいます。
 
図表1

図表1

国税庁Webサイトより筆者作成
 
また、1人で1000万円を稼ぐ人の各種控除は、基礎控除(58万円)と配偶者控除(38万円)と社会保険料控除(150万円)の合計246万円です。
 
一方、2人で1000万円稼ぐ場合は基礎控除2人分(58万円×2=116万円)、社会保険料控除(150万円)の合計266万円となり、配偶者控除はないものの、より多くの控除を受けられます。
 
なお、どちらのケースでも小学生の子どもは16歳未満であるため、扶養控除は受けられません。
 
また年収1000万円の人は課税所得が559万円となり所得税率は20%です。一方年収600万円の場合の課税所得は288万円で10%、400万円の場合は課税所得が158万円となり所得税率は5%となります。
 
実際に所得税金額を計算すると1000万円を1人で稼いだ場合約69万500円なのに対し、2人で1000万円を稼いだ場合、600万円の人は19万500円、400万円の人は7万9000円と合計26万9500円で済むのです。年間約42万円と大きな差がつくことになります。
 

住民税は税率が一律だが、基礎控除の有無で差がつく

住民税も同様に差がついてきます。住民税の税率は収入にかかわらず10%(別途5000円の均等割が課税される)ですが、「2人のほうがより大きな控除を受けられる」という点は変わらないからです。
 
図表2に住民税の計算過程を示しています。給与所得控除の金額は所得税と変わりません。基礎控除と配偶者控除は金額が違うものの、合計の控除額は2人で1000万を稼ぐ世帯のほうが控除額の合計が大きいことは所得税と同様です。
 
図表2

図表2

国税庁Webサイトおよび世田谷区 住民税についてより筆者作成
 
これら控除の差によって、税率が同じでも1人で1000万円稼ぐ世帯は約58万9000円、2人で1000万円稼ぐ世帯は2人で49万6000円と10万円近くの差がつきます。
 

まとめ

シミュレーションの結果、1人で1000万円稼ぐ世帯(月収62万5000万円+ボーナス125万円×2回のケース)の手取りは約722万円です。
 
一方、2人で600万円と400万円ずつ稼ぐ世帯の手取りはそれぞれ約460万円と約314万円の合計約774万円となり、2人で稼いだほうが手取りは大きいことが分かります。その差は約50万円で、無視できるものではありません。
 
1人で稼ぐ場合は配偶者が家事や育児、介護などに時間を使え、いざとなればパートに出て収入を増やせる、2人で稼ぐ場合は病気やけがで収入が止まったときのリスクを軽減できるといったメリットがあります。どちらがよいというわけではなく、あくまでも金額面では2人で稼いだほうが手取りが大きいという結果です。
 
こうした差が出る背景には、年収が大きくなると「所得税率が上がること」「各種控除が小さくなること」、そして共働きの場合は「2人とも基礎控除を受けられるため控除額の合計が大きくなること」が挙げられます。
 
税金や社会保険料の仕組みを知ることは大切です。この記事をきっかけに、手取りが決まる仕組みに興味を持ってもらえると幸いです。
 

出典

全国健康保険協会 令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)(東京都)
厚生労働省 令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内
国税庁 No.2260 所得税の税率
世田谷区 住民税について
 
執筆者:浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士

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