「4月と5月は残業代で給料が3万円アップ!」と喜んでいたら、「今は残業した分だけ損だよ」という同僚。実際どれくらい損になるの?“社会保険料の負担”を試算

配信日: 2025.05.30 更新日: 2025.10.21
この記事は約 4 分で読めます。
「4月と5月は残業代で給料が3万円アップ!」と喜んでいたら、「今は残業した分だけ損だよ」という同僚。実際どれくらい損になるの?“社会保険料の負担”を試算
年度末の3月や年度初めの4月は業務が立て込んで残業が増えるという人も多いでしょう。普段よりも残業代が多くついて「ちょっと得をした」と感じるかもしれません。
 
しかしその一方で、「この時期に残業すると損するよ」と言われて戸惑った経験がある人もいるのではないでしょうか? 実は社会保険料は4月から6月の3ヶ月間の給料で計算するので、この時期に残業して給与が増えると、社会保険料の負担が増えてしまうのです。
 
本記事では、その仕組みと実際にどれほどの差が出るのかについて、具体的な数字を交えて解説します。
浜崎遥翔

2級ファイナンシャル・プランニング技能士

3月から5月の残業が社会保険料に影響する理由

健康保険や厚生年金といった社会保険の保険料は、「標準報酬月額」に基づいて計算されます。
 
標準報酬月額は、例えば報酬が23万円以上25万円未満の場合は24万円、25万円以上27万円未満の場合は26万円というように、報酬額をあらかじめ定められた区分に当てはめて決定する仕組みです。実際の支給額と標準報酬月額は、必ずしも一致しません。
 
この標準報酬月額は、毎年4月から6月の3ヶ月間に支払われた給与の平均から決定されます。これを「定時決定」と呼び、この期間の平均報酬額にもとづいて算定された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの1年間にわたって適用され、報酬が大きく変動するなどの例外を除き、次の定時決定まで変わりません。
 
社会保険料は通常、1ヶ月遅れで徴収されるため、実際に手取り額に影響が出るのは10月の給与からです。
 
つまり、残業により4月から6月の給与水準が高くなると、その後1年間の保険料が上がり、結果として手取り額が減ることにつながります。なお、社会保険料に影響するのは「残業した月」ではなく、あくまでも「残業代が支給される月」です。
 
例えば、残業時間を月末で締め、翌月の給与に反映する企業では、3月から5月にかけての残業代が4月から6月の給与に含まれる形となります。このため、社会保険料を意識する場合は、実際の労働時間ではなく、報酬が支払われる月を基準に考えることが重要です。
 

実際にどれくらい負担が増えるかシミュレーション

普段の月給が24万5000円の人が3月と4月に残業をし、4月から6月の給与が以下の通りだった場合を考えます。


・4月の給与 26万5000円(3月に残業した分の残業手当2万円含む)
・5月の給与 26万5000円(4月に残業した分の残業手当2万円含む)
・6月の給与 24万5000円(5月は残業なしで基本給のみ)

3ヶ月の平均報酬は25万8333円となり、定時決定時の標準報酬月額は26万円(25万円以上27万円未満のときの区分)に該当します。
 
協会けんぽ千葉支部で介護保険に加入していない(40歳未満)の場合、健康保険料1万2727円、厚生年金保険料2万3790円なので、年間43万8204円の保険料が発生します。
 
では、残業をしていなかった場合はどうでしょうか。4月から6月の3ヶ月間の平均報酬は24万5000円となり、標準報酬月額は24万円(24万円以上26万円未満のときの区分)です。
 
そのほかの条件が同じであれば、健康保険料は月に1万1748円、厚生年金保険料は2万1960円となり、1年間に支払う保険料の合計金額は40万4496円で済みます。つまり、3月と4月に2万円ずつ合計4万円分の残業をしたことで、保険料負担が年間で3万3708円増加するのです。
 

全てが無駄になるわけではない

一時的な残業で保険料が増えた場合でも、その分が全て損になるわけではありません。将来の厚生年金額に反映されて受け取れる年金が増えるほか、所得控除によって税負担が軽減される効果もあります。
 
厚生年金の報酬比例部分は、「平均標準報酬月額×(5.481÷1000)×加入期間の月数」で計算します。標準報酬月額が2万円上がった状態で12ヶ月加入したと仮定すると、年金額は年間で約1315円増えるのです。
 
仮に20年間年金を受け取れば累計で約2万6300円、30年受け取れば約3万9450円と増え、長く受給すれば無駄にはなりません。
 
また、社会保険料は所得控除の対象になるため、課税所得が減り、所得税や住民税が軽減されます。例えば、所得税率が5%の人で約1690円、住民税は一律10%なので約3370円減り、合計で約5000円の税負担が軽減されるのです。
 

まとめ

4月から6月に受け取る残業代が多いと、社会保険料の基準となる標準報酬月額が上がり、1年間の保険料負担が増える可能性があります。一時的な残業が年単位の手取り減少につながることに注意が必要です。
 
ただし、保険料が上がれば将来の年金額がわずかながらも増える側面があります。目先の手取りだけでなく、将来への影響も含めて判断することが大切です。
 

出典

日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
全国健康保険協会 令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)
 
執筆者:浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士

  • line
  • hatebu
【PR】 SP_LAND_02
FF_お金にまつわる悩み・疑問