専業主婦からスーパーで「パート勤務」を開始! 友人に「ここは寸志が5万円も出る」と言われたけど、“社保や所得税”はどうなるの? 賞与とはどう違うのでしょうか?
ところで、賞与と寸志はどのように違うのでしょうか?本記事では「寸志」の意味や賞与との違い、おおまかな額、パートの賞与に関する調査結果などを紹介します。
特定社会保険労務士・FP1級技能士
「寸志」とは
寸志とは「少しの贈り物」という意味で、相手の労をねぎらい感謝を伝えるために、目上の人から目下の人に渡す、少額の金品のことをいいます。冠婚葬祭の受付や宴会の幹事をしてくれた人に、主催者側が寸志を贈ることも多いようです。
また、寸志は「賞与に準ずるもの」という意味合いでも使われます。賞与の支給日に、新入社員や短時間パートなど会社の賞与規定の対象から外れている人に対し、「ほんの少しだけれど……」と、寸志を渡す会社もあります。
賞与との違い
厚生労働省の定義によると、賞与とは「定期または臨時に労働者の勤務成績、経営状態等に応じて支給され、その額があらかじめ確定されていないもの」とされています。なお、寸志に労働法上の定義は見当たりません。
毎月の給与と異なり、賞与も寸志も、法律上の支払い義務はありません。そのため、会社が賃金規定などで独自に制度を定めることができます。
しかし、一般的には、賞与については支給日や支給回数、計算方法などが定められ、賃金規定にも明記されている一方、寸志については何も定められていないというケースは少なくないでしょう。
賞与と寸志の額について明確な線引きはありませんが、賞与が「月給の〇ヶ月分」のように数十万円以上になることが多い一方、寸志は数千円から数万円、多くても10万円くらいが相場のようです。
社会保険料と所得税は?
賞与に準ずる性質の寸志は、原則として健康保険や厚生年金保険、雇用保険、所得税などの対象として扱われます。そのため、本来であれば、会社は寸志からも社会保険料や所得税を源泉控除する必要があります。
しかし、会社によっては、少額の寸志については控除を行わず「渡し切り」にしているケースもあるようです。
パートに支払われている寸志と賞与
パートにも賞与を支払っている会社もあれば、寸志のみ、あるいは賞与も寸志も支給しない会社もあるでしょう。パートに支払われている寸志や賞与の状況について、2021年に東京都産業労働局が行った「パートタイマーに関する実態調査」の結果を見ていきます。
賞与(寸志)の支払額
この調査で、パート従業員に賞与の有無を尋ねたところ、「ある」と回答した人が 41.9%で、「ない」と回答した 49.3%を下回る結果でした(図表1)。
「ある」と回答した人に、2021年夏季賞与の額を尋ねたところ「5万円未満」が55%(1万円未満6.4%+1万円以上5万円未満49.1%)を超える一方、「20万円以上」と答えた人も6.0%いて、金額のばらつきが見られます。平均額は「5万9700円」でした。
なお、同調査には「寸志」という言葉は出てきませんが、支給額「5万円未満」の中には「寸志」の性質のものが含まれていると解しても不自然ではないと考えられます。
図表1
東京都産業労働局 令和3年度パートタイマーに関する実態調査
今後のパートの処遇
パートタイム労働法の観点から、正社員とパートの不合理な格差をなくそうという動きがあります。
前記の調査で、直近5年間に正社員とパートとの不合理な待遇差をなくすための取り組みを実施したかについて尋ねたところ、「実施した」が 29.6%で、「実施する予定である」が11.5%、合わせて41.1%でした。
また、「不合理な待遇差をなくすための具体的な取り組み」について尋ねたところ、「賞与の支給対象の拡大」を実施した会社は16.6%、実施する予定の会社12.8%と合わせると、29.4%となりました。
さらに、「賞与の引き上げ」を実施した会社が5.2%、実施する予定の会社が11.4%あり(合計16.6%)、賞与に関する待遇格差を縮めようとする動きが見られます。
まとめ
「寸志」とは、賞与制度の対象者から除外されている人に対し、賞与に準ずる扱いで支給される少額の金銭を指します。金額にはバラつきがありますが、数千円から多くても10万円くらいです。タイトルの「5万円」は、賞与よりは少なめですが、寸志としては通常の額といえるでしょう。
「寸志より賞与のほうが高額だから、賞与制度のあるパート先を探そう」と思うのは、少々早計かもしれません。
従業員の労働に報いる方法は会社によりさまざまで、賞与や寸志がなくても時給が高かったり、退職金制度があったり、スキルアップ体制が整っていたりすることがあるからです。長く勤める予定であれば、寸志や賞与の額だけでなく、総合的な処遇を吟味して選びたいものですね。
出典
厚生労働省 平成21年就労条件総合調査結果の概況:主な用語の定義
東京都産業労働局 令和3年度パートタイマーに関する実態調査
執筆者 : 橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士

