「月収25万円・通勤手当3万円」で、手取りが“年3.6万円”減る!? 通勤手当は非課税なのに「保険料が上がるカラクリ」と、将来の年金が増える意外なメリットとは
本記事では、「非課税」のはずの通勤手当が手取りを減らしてしまう仕組みと、公的年金や公的保険の給付額などが増えるというメリットについて、分かりやすく解説します。
FP2級
目次
なぜ?「非課税」なのに通勤手当で手取りが減る仕組み
「非課税」と聞くと、一切お金が引かれないイメージを持つかと思います。それなのに「通勤手当」が理由で手取りが減ってしまうのは、「税金」と「社会保険」のルールが異なるためです。以下で2つのルールについて解説します。
ルール(1)税金の計算上、通勤手当は「利益」ではない
所得税などを計算する「税金」のルールでは、基本的に通勤手当は「利益」とは見なされず課税はされません。税金のルールにおいて通勤手当は、「会社へ行くためにかかった交通費などの実費を補うもの」と考えられています。課税対象とならない理由は、それが個人の利益ではなく経費の補てんと位置づけられているからです。
ルール(2)社会保険の計算上、通勤手当は「報酬」に含まれる
一方で、「社会保険」の計算では、税金と異なり通勤手当も「報酬」に含めて年金保険料や健康保険料を算出するのがルールです。
社会保険では、「事業主が労働の対償として支払う全てのもの」を「報酬」と定義しています。通勤手当も会社から毎月決まって支払われる労働の対償の一部と見なされるため、社会保険料を計算する際の元となる報酬に含まれるのです。このルールの違いが、「税金はかからないけど社会保険料は上がる」という現象を引き起こします。
【簡単シミュレーション】年間でいくら差が出るの?
通勤手当がある人とない人で、実際にどれくらい社会保険料に差が出るのか、具体的な数字で見てみましょう。ここでは通勤手当のないAさんと、通勤手当を3万円支給されているBさんを比較します。月収やその他条件は同じであるものとします。
・Aさん(通勤手当なし)月収25万円
・Bさん(通勤手当3万円)月収25万円
図表1 通勤手当の有無による社会保険料の比較(40歳以上・東京都勤務の場合)
| 項目 | Aさん | Bさん | 差額 |
|---|---|---|---|
| 社会保険料計算の元になる月収 | 250,000円 | 280,000円 | 30,000円 |
| 毎月の社会保険料(本人負担) | 38,740円 | 41,720円 | 月額 2,980円 |
| 年間の社会保険料(本人負担) | 464,880円 | 500,640円 | 年額 35,760円 |
全国健康保険協会「令和7年度保険料額表」より筆者作成
図表1のとおり、通勤手当が月3万円あるBさんのほうが、通勤手当のないAさんより、月額約3000円、年間にすると約3万6000円も多く社会保険料を支払うことになります。これが、手取り額に直接影響してくる金額です。
「手取り減」は、ただの損じゃない! 意外なメリットとは?
通勤手当が支給されることによって手取りが減っているため、「会社へ通勤するためにもらっているお金なのに損しているじゃないか!」と思ってしまうかもしれませんが、実は悪いことばかりではありません。多く支払った社会保険料は、将来の自分に返ってくるという側面も持っています。
図表2では、社会保険料を多く払うことのメリットをまとめました。
図表2
| メリットの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 将来の年金 | 厚生年金保険料を多く納めるため、老後にもらえる年金額が増える |
| 病気・けがの保障 | 会社を休んだ際にもらえる「傷病手当金」の額が増える |
| 育児・介護の保障 | 「育児休業給付金」や「介護休業給付金」の額が増える |
毎月の手取りが減ってしまうのは事実ですが、社会保険料を多く払うことで将来の「年金」や、万一のときの「保険」が手厚くなっていると考えることもできます。
通勤手当で毎月の実質的な手取りは減るが、将来の保障は手厚くなる
通勤手当には所得税はかからないが、社会保険料の計算には含まれるというルールがあります。その結果、通勤手当が多いほど社会保険料も上がり、毎月の実質的な手取りは減ってしまいます。
しかし、社会保険料を多く支払うというのは損をしているだけではありません。多く支払った社会保険料は、将来の年金やいざというときの保障を充実させてくれるメリットがあることも覚えておいてください。
出典
全国健康保険協会 令和7年度保険料額表(東京支部)
執筆者 : 大垣はち
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