【薬剤師vs大卒男性】薬剤師になるため「薬学部」に行きたい息子。学費「1000万円」以上で6年かかるなら、4年制大学を出て就職すべきですか?
薬学部は6年制であり、一般的な理系学部4年制と比べると学費も在学期間も長くなります。果たして、薬剤師になればその投資は回収できるのでしょうか。各種統計に薬剤師資格を持つ筆者の経験を交えながら考えていきます。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
薬学部進学のコストは大きい。しかも必ず薬剤師になれるわけではない
まず、金銭的な負担を整理します。文部科学省の「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」によると、私立理系学部4年間の学費は入学金を含めおよそ541万円です。
一方、私立薬学部の学費は6年間でおよそ1000万円から1500万円が必要とされています。仮に1200万円が必要だとして、単純に比べても学費差は約660万円にものぼるのです。
さらに、薬学部の在籍期間は通常の4年制大学と比べて2年間長く、2年間社会人として得られる収入が減ってしまいます。厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると大卒20~24歳男性の平均年収(所定内給与額12ヶ月分と年間賞与・その他特別給与額の合計)は約339万円であり、2年間でおよそ678万円の機会損失です。
したがって、薬学部進学は、学費差と就労の遅れを合わせて約1340万円の差額が生まれる計算になります。また、薬剤師になるには国家試験に合格しなければなりません。厚生労働省のデータによれば、新卒者の合格率は例年85%前後であり、残り15%は不合格というのが現実です。
多くの大学が国家試験前に卒業試験を課しており、これに合格しないと国家試験を受験できません。卒業試験の合格率は大学によってばらつきがありますが、筆者が卒業した年は下位10%ほどが卒業試験をパスできず留年していました。
筆者のケースでは、国家試験を受けられたのは全体の90%で、そのうち統計通り85%が合格できたとすると、卒業予定者全体の76.5%しか一発で合格できない計算になります。
学年ごとにも留年のリスクがあることを考えると、6年ストレートで国家試験合格までたどり着くのは、見た目の統計以上に難しいという点にも、注意が必要です。留年や卒業後の浪人、予備校に通った上での再受験となれば、当然その分学費や生活費が余計にかかりますし、労働の機会損失も増えます。
20~30代は薬剤師のほうが高収入だが、40代以降は逆転される
では、収入面ではどうでしょうか。前記の厚生労働省の調査をもとに大卒者男性全体と薬剤師の年齢別の平均年収(所定内給与額12ヶ月分と年間賞与・その他特別給与額の合計)を比較したものが図表1です。20~30代前半までは薬剤師が大卒者男性全体より高い収入を得ています。
図表1
厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査 より筆者作成
例えば、30~34歳では差額が50万円以上となるなど、若い世代で薬剤師の給与が安定して高いのは事実です。
しかし、40代以降になると大卒者男性全体の給与が大きく伸び、薬剤師を上回ります。薬剤師が20~30代で稼いだプラス分を考慮しても、追加コスト1340万円を生涯の収入差で取り返すことは難しいのです。
それでも薬剤師という国家資格の価値は大きい
では薬学部進学は無駄なのかというと、そう単純ではありません。薬剤師は医薬品の調剤や薬局の管理など、法律で定められた独占業務を担う国家資格です。医療現場に欠かせない職種であり、今後も安定したニーズが続くでしょう。
また、資格を持つことで転職や再就職がしやすいのも大きな魅力です。筆者は薬剤師の現場を離れて3年がたちますが、ありがたいことに今でも就業してくれないかという依頼を受けることがあります。
もちろん、医療・薬の常識は日々更新されるため、それに対応する努力をすることは前提ですが、現状は一度取得すれば安定して職につける資格という位置付けといえるでしょう。
まとめ
薬学部進学は、私立理系と比べて学費や就労の遅れを合わせ約1340万円の差額が発生します。しかも、薬剤師になるには国家試験合格が必須であり、留年や浪人によってさらに負担が増える可能性に注意が必要です。
一方、年収面では20~30代こそ薬剤師が優位ですが、40代以降は大卒者男性に逆転され、生涯で単純に「元を取る」のは難しいでしょう。
しかし、薬剤師は国家資格に裏打ちされた安定性を持ち、就職や転職のしやすさ、離職後の復帰のしやすさといったお金以外のメリットがあります。進学を検討する際には、収入差だけでなく、こうした安定性やライフスタイルとの相性を含めて考えることが大切です。
出典
文部科学省 私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等平均額(定員1人当たり)の調査結果について
厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況
厚生労働省医薬局 第110回薬剤師国家試験 大学別合格者数
執筆者 : 浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士

