夫の年収が“1000万円”に届きましたが「共働きで世帯年収1000万円」より税負担が重いと聞きました。どういうことでしょうか?
本記事では、「所得税のしくみはどのようなものか?」「なぜ単独年収1000万円は世帯年収1000万円よりも税負担が重くなるのか?」について解説します。なお、本記事において世帯年収とは、共働き世帯の夫の年収と妻の年収の合計額をいいます。
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
所得税のしくみはどのようなものか?
所得税は、個人が1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に対してかかる税金です。会社員で収入が給与・賞与のみの場合、所得税額の計算は以下のように行います。
(1)年収から給与所得控除を差し引いて「所得金額」を算出する
(2)所得金額から所得控除を差し引いて「課税所得金額」を算出する
(3)課税所得金額に所得税の税率を乗じて「所得税額」を算出する
(4)所得税額から税額控除を差し引いて「納付税額」を算出する
ここでのポイントは、所得税の税率が「超過累進税率」であるということです。超過累進税率とは、課税所得金額が大きくなるにつれて高い税率が適用されるというもので、現在の法律における所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5~45%の7段階に区分されています(図表1参照)。
図表1
※出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」
例えば、所得金額が300万円の場合、所得税額は以下のように計算します。
300万円×10%-9万7500円=20万2500円
なぜ単独年収1000万円は世帯年収1000万円よりも税負担が重くなるのか?
単独年収1000万円と世帯年収1000万円の税負担を比較するにあたり、以下のように仮定します。なお、課税される所得金額については、説明を分かりやすくするために設定した金額であり、実際は所得控除額の大小により異なります。
・単独年収1000万円のときの課税される所得金額を300万円とする
・世帯年収1000万円のとき、年収は夫500万円・妻500万円とし、課税される各所得金額を150万円とする
所得金額300万円のときの所得税額は20万2500円(=300万円×10%-9万7500円)です。一方、所得金額150万円のときの所得税額は7万5000円(=150万円×5%)です。7万5000円×夫婦2人=15万円ですので、1人で稼ぐよりも同額を2人で稼いだほうが所得税額は少なくなることが分かります。
このような結果になるのは、所得税率が超過累進税率であることに起因します。
先の計算において、課税所得金額300万円のときの所得税額を、速算表を用いて「300万円×10%-9万7500円」と計算しましたが、本来の計算は「195万円×5%+(300万円-195万円)×10%」です。つまり、課税所得金額300万円のうち195万円までは税率5%で、195万円を超える金額については10%の税率が適用されるということです。
先の計算で単独年収1000万円と世帯年収1000万円の税負担に差が生じたのは、単独年収の所得税の計算において、より高い税率が適用されたことが原因です。したがって、本記事の例のような仮定でなくても、適用される税率が異なれば税負担も異なるという結果になります。当然のことながら、より高い税率を適用されたほうがそれだけ税負担は重くなります。
まとめ
本記事では、「所得税のしくみはどのようなものか?」「なぜ単独年収1000万円は世帯年収1000万円よりも税負担が重くなるのか?」について解説しました。まとめると、以下のとおりです。
・所得税は、(1)所得金額、(2)課税所得金額、(3)所得税額、(4)納付税額の順で求められる
・単独年収1000万円が世帯年収1000万円よりも税負担が重くなるのは、所得税の税率が「超過累進税率」であるため
本記事でのポイントは、「超過累進税率」です。超過累進税率とは、課税所得金額が大きくなるにつれて高い税率が適用されるというものです。現在の法律において、所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5~45%の7段階に区分されています。
単独年収1000万円と世帯年収1000万円で税負担に差が生じるのは、所得税の計算の過程において適用される所得税率に差が生じるからです。共働きによって収入源を分散することで、夫または妻のどちらか一方(あるいは夫婦とも)の所得税率が単独年収のときの所得税率よりも低ければ、税負担は軽くなります。
本記事では、所得税の計算過程・計算方法についても解説しています。少しでも参考になれば幸いです。
出典
国税庁 所得税のしくみ
国税庁No.2260 所得税の税率
執筆者 : 中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー

