最低賃金が「時給で63円」アップ見込み! 月給で“1万円”ほど上がりそうですが、「諸手当を含めば最賃はクリアしてる」と言われました。アップなしは法的に問題ない? 誤解しやすいポイントを解説

配信日: 2025.10.20 更新日: 2025.10.21
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最低賃金が「時給で63円」アップ見込み! 月給で“1万円”ほど上がりそうですが、「諸手当を含めば最賃はクリアしてる」と言われました。アップなしは法的に問題ない? 誤解しやすいポイントを解説
本年度の最低賃金は昨年度以上の大幅アップになり、とりわけ中小企業経営者は大きな負担を感じているでしょう。
 
しかし、最低賃金は法で定められた最低基準です。諸手当などを含めるかどうかは、誤りやすいポイントであり、誤解している経営者も見受けられます。従業員として知っておくべき最低賃金の基本を解説します。
 
あわせて、今後考えられる最低賃金の動向などについても俯瞰(ふかん)して解説します。
玉上信明

社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

最低賃金制度とは何か

最低賃金制度は、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者(会社)は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
 
最低賃金額に達しない賃金を就業規則や労働契約で定めても、その部分は無効です。無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます。さらに、使用者が最低賃金以上の賃金を払わなかった場合、50万円以下の罰金が科されます。
 
最低賃金は、通常は都道府県別に定められる「地域別最低賃金」を指します。都道府県内の事業場で働く全ての労働者とその使用者に適用されます。正社員、パート、アルバイト、派遣社員等の雇用形態を問いません。
 

本年度の地域別最低賃金は昨年以上のアップ

2025年度の最低賃金改定は、昨年度以上の大幅な上げ幅でした。本年度の地域別最低賃金は、8月4日に中央最低賃金審議会にて「改定の目安」が示されました。これに基づいて都道府県ごとの最低賃金審議会にて決定され、10月以降に適用されます。
 
都道府県の経済実態などから、Aランク6都府県、Bランク28道府県、Cランク13県とされ、Aランク63円、Bランク63円、Cランク64円の引上げ額の目安が示されました。
 
この目安では、全国加重平均の上昇額は63円で、昨年度の実績51円を大幅に上回っています。引上げ率は6.0%(昨年度は5.1%)です。全都道府県で最低賃金が1000円を超えることになります。
 
しかも、多くの県の審議会では、この目安を上回る引上げが行われてきています。物価高や近隣県・都市圏への人材の流出の懸念などから、知事などが積極的な引上げを要請する動きが目立っています。例えば、鳥取県は1030円とされました。73円の引き上げで目安64円を9円上回っています。
 

「諸手当含めれば最賃クリア」は誤解かも-最低賃金に含まれるもの、含まれないもの-

経営者が「諸手当を含めて最賃はクリアしている」と言っている場合、注意が必要です。最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金であり、しっかり見分けておく必要があります。
 
まず、臨時に支払われる賃金(結婚手当など)や、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は対象外です。また、毎月の基本的な賃金という趣旨から、時間外・休日・深夜等の割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当なども対象外となります。
 
図表1

図表1

厚生労働省 最低賃金の対象となる賃金
 

会社には最低賃金についての周知義務がある。しっかり説明を求めよう

会社は、最低賃金について従業員に周知する義務があります。すなわち、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、算入しない賃金および効力発生日などです。これらの事項を、作業場の見えやすい場所に掲示するなどの方法で周知する義務があります。
 
経営者から「諸手当を含めれば最低賃金はクリアしている」と言われても、どんな手当を含んで計算しているのかなど、しっかり説明を求めましょう。
 
手当の名称ではなく「実質的に労働の対価となる基礎的な賃金で、月々変動するものではない」という点を確認しましょう。疑問があれば労働基準監督署などへの相談も検討したほうがよいでしょう。
 

最低賃金額以上かどうかを確認する方法

最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を比較します。
 

・時間給制の場合

時間給≧最低賃金額(時間額)
 

・日給制の場合

日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
 

・月給制の場合

月給÷1ヶ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
 

・出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合

出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間の総労働時間数で除して時間当たり金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
 
【月給制の場合の例:鳥取県で働くAさんの場合 最低賃金額1030円(今回73円引上げ)】
 
(前提)
基本給15万円 職務手当3万円 通勤手当5000円 時間外手当3万5000円 (合計22万円)
労働時間 1日当たり8時間 年間労働日数250日
 
(最低賃金額以上かどうか確認)
(1)Aさんの賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は通勤手当、時間外手当です。職務手当は除外されません。

22万円-(5000円+3万5000円)=18万円

(2)この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較します。

(18万円×12ヶ月)÷(250日×8時間)=1080円>1030円

最低賃金額以上となっています。
 

最低賃金は労働者の基本的な権利

最低賃金以上の賃金を受けるのは、労働者の基本的な権利であり、国家によって保障されています。賃金の最低額を保障することで労働条件を改善し、生活の安定や労働力の質的向上を図っています。それが国民経済の健全な発展に寄与すると考えられています。
 
石破首相は「2020年代に最低賃金を全国平均で1500円まで引き上げる」とする目標を掲げており、今後も大幅なアップが予想されます。
 
このような動きにも関心を持ち、働く人として自分の権利はしっかり主張しましょう。疑問があれば労働基準監督署等に相談しましょう。
 

出典

e-Gov法令検索 最低賃金法
厚生労働省 最低賃金制度の概要
厚生労働省 令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について
 
執筆者 : 玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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