「月給30万円」の会社員…「昇給3000円」で喜んだのに、なぜか“手取り”が増えてない! なぜ「税金で消えてしまう」? 給与明細で確認したい“2つの罠”とは
しかし、いざ給与明細を見ると、期待したほど手取りが増えていない、場合によっては減っている、という経験はないでしょうか。なぜ昇給したはずなのに、自由に使えるお金が増えないのでしょう。その理由は、給与明細の「控除欄」に隠されています。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
罠その1:昇給で税率が上がる?「税金」の仕組み
手取りが増えない1つ目の理由は、所得税や住民税といった「税金」の負担が増えるためです。
まずは所得税ですが、日本の所得税は「累進課税」を採用しています。これは、所得が多ければ多いほど、高い税率が適用されるしくみです。
例えば、課税される所得金額(給与の額面そのものではなく、そこから給与所得控除や社会保険料控除、扶養控除などを差し引いた後の金額)が「195万円を超え329万9000円まで」の場合、所得税率は10%です。
しかし、昇給によってこの金額が「330万円を超へ694万9000円まで」の区分に入ると、税率は20%になります。
もちろん、330万円を1円超えた瞬間に、すべての所得に20%の税金がかかるわけではありません。超えた部分に対してだけ高い税率がかかります。とはいえ、昇給によってこの税率が変わる「境目」をまたいでしまうと、増えた給与以上に税金の負担感が大きくなる可能性があります。
さらに見落としがちなのが住民税です。住民税は、前年(1月~12月)の所得に基づいて計算され、今年(6月~翌年5月)の給与から天引きされます。
もし、前年に昇給したり、残業が多かったりして所得が増えていると、その情報に基づいて計算された住民税が今年の給与から引かれます。
つまり、今年の昇給が3000円だったとしても、前年の所得増によって今年の住民税が3000円以上アップしていれば、昇給分が相殺されて手取りが増えないという現象がおきるのです。
罠その2:3000円昇給のつもりが……「社会保険料」の境目
手取りが増えない2つ目の、そして大きな原因となるのが、健康保険料や厚生年金保険料などの「社会保険料」です。
社会保険料は、「標準報酬月額」という基準に基づいて決まります。「標準報酬月額」は、原則として毎年4月、5月、6月の給与(残業代や交通費なども含む)の平均額から算出されます。
そして、その等級に応じた社会保険料を、その年の9月から翌年8月まで支払う仕組みです。標準報酬月額は、一定の幅(等級)で区分されており、ここに手取りが上がらない「罠」があります。
例えば、月給が30万8000円から31万1000円へ3000円昇給したケースです。この場合、標準報酬月額の等級(区分)が「30万円」から「32万円」に上がります。
等級が上がったことで、社会保険料の負担は月額数千円単位で増加します。このため、昇給額3000円の多くが、社会保険料の増加で相殺されてしまうのです。
これは、昇給が社会保険料の等級が上がる「境目」と重なったために起こる現象です(等級や保険料額は、加入する健康保険組合や年齢、地域によって異なります)。
手当の変更や扶養の「壁」も影響
税金や社会保険料以外にも、手取りが期待通りに増えない要因があります。
1つは、会社独自の手当の見直しです。昇給と同時に、住宅手当などのルールが変わり、減額または廃止されると、総支給額(額面)が期待ほど増えません。
次に、配偶者の「扶養」も手取りに影響を与えます。例えば、妻がパートで「106万円の壁」を超えて社会保険に加入すると、妻の手取りが減ります。
さらに123万円を超えると夫の「配偶者控除」を受けられなくなり、夫の税負担が増える可能性もあるでしょう。世帯全体で見ると、昇給が手取りアップに直結しないケースもあるのです。
昇給と「控除」、仕組みの理解が家計を守る
昇給は喜ばしいものですが、手取りを考える上では「控除」への理解が欠かせません。手取りが増えない背景には、税金や社会保険料の仕組みが複雑に関係しています。
特に社会保険料は、4月~6月の給与(残業代を含む)が、9月以降の1年間の保険料を左右する点も覚えておきましょう。
この時期の残業が多いと、手取りを圧迫する一因にもなり得ます。給与明細では支給額だけでなく「控除欄」にも目を向け、何が引かれているのか確認する習慣が、家計管理に役立つでしょう。
出典
国税庁 No.2260 所得税の税率
国税庁 No.1191 配偶者控除
執筆者 : 山口克雄
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
