「路線価」上昇が相続税の納付者を直撃する

配信日: 2019.12.04

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「路線価」上昇が相続税の納付者を直撃する
毎年7月に国税庁が公表する路線価。翌年の相続税や贈与税納付の際にベースとなるため、特に相続が発生した人にとっては無関心ではいられません。
 
このところ首都圏などの大都市圏では4~5年にわたって地価上昇が続き、それに伴い路線価もかなり上昇しています。相続税を納付する人にとっては頭の痛い問題です。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

実態以上に上昇した路線価

「路線価」は道路に面している土地の価格を表すもので、年に1回、国税庁が7月に公表しています。この数字が、翌年分の相続税や贈与税の納付額を計算する際の基準になります。商業地のほうが住宅地よりも価格は高くなっています。
 
土地の価格を表す「路線価」以外の指標としては、国土交通省が土地取引の実態などをベースに、3月に公表している「公示地価」と、公示地価の調査地点に林地などさらに広い地点の土地の価格を加え、9月に公表する「基準地価」があります。この2つの指標は、路線価よりもやや高めになる傾向があり、実際の土地取引に際に参考にされます。
 
東京など首都圏では、東京オリンピックを前にしたここ4~5年、新規の建設工事が盛んに行われ、土地取引の件数も増加していました。そのため土地の取引価格も上昇基調にあり、それが2019年の路線価などにかなり反映されています。
 
2019年時点では土地取引は沈静化しつつあり、首都圏でも、取引価格が下落している地域も多く見られます。
 
路線価が実態よりも遅れて公表されるという側面があるにせよ、路線価の上昇は納税者を直撃するため、高額な相続税に対する不満も出てきそうです。相続の時点が少し遅れるだけで、相続税納付額に差が生まれてしまうためです。
 

首都圏で路線価の上昇が顕著

路線価の全国平均は、前年比1.3%のプラスとなっています。とくに首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)では6年連続のプラスで、中でも東京は前年比4.9%のプラスとなりました。
 
首都圏ほどではありませんが、関西圏の大阪が1.9%のプラス、中部圏の愛知が2.2%のプラスとなっています。全国的には2015年まで路線価は下落基調でしたが、2016年以降は上昇基調が持続しています。
 
駅から徒歩圏にある低層住宅地域の2019年の路線価を、4年前の2015年と比較してみると、場所によっては10%超上昇している地点が多いことがわかります。これまで路線価が高額だった地域でも、さらに上昇しています。
 
商業地は住宅地に比べて、さらにこの上昇幅が大きくなっています。東京銀座の1平方メートル当たりの4000万円超えは別格としても、浅草や大阪市内など、商業地の上昇幅は一段と大きくなっています。これは外国人観光客の増加によるものです。
 
路線価上昇の具体例として、都内で標準的な住宅地を考えてみましょう。
 
JR中央線の阿佐谷駅(杉並区)から徒歩10分ほどにある200平方メートルの土地を相続した場合、4年前の2015年1平方メートル当たりの路線価は39万円で、土地の課税評価額は約7800万円でした。それが2019年の路線価は48万円、課税評価額は約9600万円に上昇しています。4年の間に、路線価は12%以上、土地の課税評価額で1800万円も上昇したことになります。
 

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相続がより厳しくなる地域も

これが山手線の内側地域や周辺の高級住宅地と呼ばれる地点では、2019年の路線価はさらに高額です。例えば、東京都心の一等地、港区南麻布4丁目では住宅地1平方メートル当たりの路線価は153万円、渋谷区松濤1丁目では138万円の地点があります。
 
また山手線からやや離れた高級住宅地の代表、大田区田園調布3丁目の1平方メートル当たり路線価は88万円、世田谷区成城6丁目は68万円と、いずれも高額な地点が存在します。
 
これらの高級住宅地でも、2015年と比較すると10~15%は値上がりしています。ここで広い敷地を相続すると、相続税の重圧に悩むことになるのは一目瞭然です。そのため相続時に、土地の一部を売却し納税に充てるケースも目立っています。
 
これらの地域で、「地盤が固い」「浸水被害を受けにくい」など防災面での優位性が定着すれば、他の地域に比べ、さらに路線価の上昇が見込まれます。
 
特に東京都内では、相続により支払う税額が上昇します。しかし生活実感としては希薄で、むしろ下がっていると考える人が多いはずです。そのため、2020年春の相続税の納付時に、取引価格は下がっているのになぜ? と、困惑する人が増えそうです。
 

相続「負動産」に困惑する事態も

大都市圏の路線価は上昇傾向ですが、人口減少が顕著な地域では、土地評価額が下落しています。路線価表示がない地点もありますが、評価額が下落すれば相続税額も減少しますが、別の深刻な問題が起こります。
 
相続を避けたい「負動産」問題です。具体的には、バブル時代に親が購入した老朽化した土地付き別荘、親が1人で住んでいた過疎地の旧宅や山林など、売却しづらい遺産も相続対象になるからです。
 
利用しない別荘や過疎地の旧宅でも課税評価額がゼロにならないため、相続税の対象になります。売却など相続財産の処分も簡単ではありません。
 
処分ができないと相続税だけでなく、その後には固定資産税も支払う必要が出てきます。相続後に名義変更をすれば、相続した不動産に対して固定資産税が毎年課税されてきます。好ましいことではありませんが、登記をせずに放置し固定資産税を支払わないという選択をする人が、今後増える可能性もあります。
 
実際の取引価格と、土地評価額とのギャップが生まれているだけでなく、固定資産税を抱え込むことになります。処分が難しい不動産を相続する事態に、行政が対応してくれません。
 
一方で登記の義務化が検討されているようですが、こうした不動産への行政の対応策として、土地の無償買取りなどの方策が求められる時期にきています。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト


 

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